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04ー②アスラン王太子殿下


ここにきて漸く休みを貰ったミュゲは、朝寝を楽しもうとベッドの中で、毛布の触り心地を堪能していた。


全ての隠し通路を覚えて、アスランの身に何かあった時には、すぐに駆け付けられる自信があった。

網の目のような秘密の通路だったが、暗闇の山道と比べると、はるかに分かりやすい。


探検気分で、ワクワクしながら覚えられたのは良かった。

地図を見せられただけだったら、きっと覚えられなかっただろう。

机上の勉強は気が乗らないが、実地訓練などは、ヤル気満々である。


勉強だけでなく、下働きの仕事も好きだった。

アスランの住まう離宮を掃除しながら、部屋の警戒をしたりすることは、嬉しかった。

綺麗な王子さまを守っていると思うと、ミュゲのテンションが上がるのだった。


ミュゲの部屋は、下働きの中でも更に下級使用人専用棟の三階の物置部屋だ。

元は物置なので、その中はかなり狭い。

普通は二人で一部屋を使うのだが、ミュゲが不審な動きをしてもばれないように二人部屋ではなく、一人部屋となったのだ。


だが、新人が一人部屋を使っては不自然だ。

その為、一人でも狭い物置部屋を用意され、更にこの部屋は出入りを見られないように、奥まった場所を割り与えられていた。


そんな場所でも、ミュゲは居心地良く生活を送っている。

なぜなら、ミュゲはアルガスの山中で、夜遅くなったときは無理に帰ることはせず、動物の巣穴で寝ることもあったからだ。

なので、部屋が狭くても不都合には感じなかったし、一人だとやはり、何かと都合が良い。


ここを用意してくれたのは、ロスベータ侍女長が信頼している古参の侍女のアンナで、唯一信頼できる味方だと紹介された。彼女のお陰でミュゲは大勢いる掃除係の侍女の一人として、存在薄く生活ができている。


元々下級侍女の数は多く、仕事の割り当てのローテーションもあり、ミュゲが途中でいなくなっても、誰も気がつかない。

しかも、ミュゲはアンナと仕事を組んでいることもあって、比較的自由に動くことができた。

食堂のご飯も美味しいし、職場的には最高だと、ミュゲは満足している。


今日は久しぶりの休みをもらい、昼近くまでベッドでごろごろしていた。だが、ミュゲの手首のブレスレットが光りだした。


このブレスレットだが、この王宮に来たすぐに侍女長からミュゲに渡された物だ。

真ん中の小さな宝石が青く光れば、ロスベータ侍女長の部屋に行かなければならない。

赤く光れば緊急事態なのでアスラン王太子の部屋に直行しろと教わった。


現在ブレスレットの色は青色だ。

つまり、緊急ではないのだろうと思い、ミュゲはベッドからのそのそと起き出した。


「お休みをくれたはずなのに・・どうしたのかな?」


ミュゲは支度して侍女長の部屋に向かう。


下級侍女のミュゲは、掃除の時間でもないのに、王宮の廊下を闊歩できない。なので、いつも通り秘密の通路を使うことにした。


部屋に入ると、ロスベータ侍女長の顔色が真っ青で驚く。

しかも手も震えていて、口を開いて何かを言おうとするが、震えて声も出せないようなのだ。


明らかにおかしいロスベータ侍女長の様子に、恐怖を感じ、ミュゲは一歩下がってしまう。

だが、ミュゲに助けを求めるようにロスベータ侍女長の手が伸びて来た。

そして、絞り出すように話す。


「ミュゲ様、殿下を助けて!! 今から一緒にアスラン殿下の部屋に行って勇気付けて欲しいの。そして、殿下の心をお救い下さい!」


ロスベータ侍女長が震える声で説明をしてくれたが、衝撃的な内容だった。


「アスラン殿下が毒のせいで倒れられました・・」

「毒で?」

ミュゲはまだ起きているアスランに会ったことはないが、度々見ていると知り合いになった気でいた。

 その子が今死にそうなのだ。


ショックを受けているミュゲに、ロスベータ侍女長はすがり付くように言う。

「処置が早くお命は助かりました。しかし、もう、アスラン殿下には希望がないのだと思います。だから、あなたのスキル(隠密)で隠れながら、殿下の話し相手になってください」


泣き崩れるまま、土下座する侍女長。


「わかりました。私に何ができるか分かりませんが、少しでも殿下のお力になりたくて、王都まできたんですもの。なんだってやります!」


元気良く返事するミュゲに、侍女長は祈るような仕草のまま頭を下げた。そして、すぐにアスランの部屋に向かう。

ロスベータ侍女長は廊下から、ミュゲは隠し通路から、それぞれ部屋に入った。


侍女長が大きなベッドに近寄り、青黒くなった小さな手を擦るがぴくりとも動かない。


ミュゲも侍女長の隣に立ち、ベッドで寝ている男の子を見て、言葉をなくした。

月明かりでしか見ていなかった王太子の顔を、昼間見たのは初めてだった。

その顔が青黒いのだ。


「殿下は今朝、毒の入ったスープをご自身で飲まれたようです」


ポツリと侍女長が話す。


「え? 自分で?」

侍女長からアスラン王子の過酷な状況聞かされてはいたが、まさか毒を盛られる程だとは思っていなかった。

味方もなく、この一室に閉じ込められて毎日目の前に毒を置かれる日々。


ミュゲはもう一度死人のような男の子を見る。

そして、うなされながら眠っていたアスランの顔を思い出した。


夜、眠っているときでさえ、苦しんでいたのだと初めて気がつく。


「今回は騎士団長が偶然にも、スプーンの落ちる音に気付き、異変を察知し、早期の治療でお命は助かりました」


ロスベータ侍女長は、食べ物に度々毒が入れられている事は知っていた。

だが、その対策としてアスランに銀のスプーンや指示薬を渡していたのだ。


しかし、これさえ渡して置けば大丈夫、と思っていた自分の浅はかな考えを呪った。


一人っきりでアスランを戦わせておいて、心を救うことにまで配慮しなかった自分の行動を責め悔やんだのだ。


「ミュゲ様、そのスキルを使ってアスラン殿下を守って下さいませんか? 孤独と戦い、苦しんでいる殿下を救って下さい・・」

侍女長は歯を食い縛るようにミュゲに頼む。

ロスベータ侍女長も追い詰められていたのだ。

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