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03ー① 王都


途中まで魔獣騎士に送ってもらい、順調だった。

隣の領地の領主や民は、魔虫(まちゅう)駆除をしてくれているダンメルスの騎士やミュゲに手を振って挨拶してくれた。


だが、王都に近付くにつれ、魔獣を見た他の領地人が腰を抜かしたり、叫ぶのを見たミュゲは、魔獣騎士にここからは一人で行くと告げ、領地に帰らせた。

そして、一人で乗り合い馬車に乗り王都を目指す。


ダンメルス領では、大人しい魔獣をペットや馬代わりに飼っている人が多い。


だが、領地を過ぎると魔獣は一匹も見掛けなくなる。


それよりも、もっと驚いたのが、魔虫が一匹もいないのだ。

ダンメルス領では、食物連鎖の頂点捕食者であるドラゴンが減ってきて、その次点捕食者の魔虫が増えたため、度々魔虫の被害に悩まされているが、ここではとても平和だった。


それもこれも、ダンメルスの人々が最前線でその魔虫と戦っているおかげなのだと思うと誇らしい気持ちになり、自然と胸を張る。


何度も馬車を乗り換えて、やっと到着した王都。


そこは見たことのない都会だった。

華やかな衣装を着た女性が、颯爽と歩いている。

男性も綺麗なピカピカの革靴を光らせて石畳を行く。


沢山のお店が出ていて、今日はお祭りなのだろうかと間違うほどだった。

だが、それは表通りのだけに限った事である。


喧騒を抜けて少し裏路地に入ると、急にひっそりとした。

しかも、みすぼらしい格好の子供や大人が沢山、生気の無い瞳でうろうろしている。

先ほど見たぴかぴかの人達と、ボロボロの服の人達とは違い過ぎて、同じ地域にいる事に違和感を感じる。


ここで生活している人々は、この状況に何も感じないのだろうか?と不思議に思うミュゲだった。

ダンメルス領も貧富の差はあるが、ここまで酷いものではない。


ミュゲは裏路地のあまりの暗さに、異世界にでも紛れ込んだような感じがしたが、これも王都の特徴なのかと地図を頼りに路地を進む。


しかし、全く地図には書かれていない建物があり、道を間違えたかと、もう一度地図を見直していると、三人の男に囲まれていた。

その男達の人相は悪く、目をギラ付かせていたが、ミュゲは見ていなかった。

見たとしても、領地の男達の方がよほど怖い顔をしていたから、気にもならなかっただろう。


迷子になりかけていたので、ちょうど人が居たことに安堵し、話しかける。

「すみません、この大きな屋敷に行きたいのですが、どっちに行けばいいですか?」

王宮を指差して尋ねた。


「なんだ?嬢ちゃん一人か?」

男が片方の口端をあげて、いやらしく笑う。

それに釣られてミュゲも笑ってしまった。

気持ちの悪い男たちだったが、道を教えて貰うなら愛想は必要だ。


「はっはっは。これ見ろよ。大きな屋敷って、こりゃ王宮の事だぜ」

笑われてミュゲは真っ赤になる。


「お嬢ちゃんはもう王宮に行けないよー」

一人の男がおどけながら、ミュゲの腕を掴む。


だが、意味が理解できないミュゲは、首を傾げた。

「なぜ? まだ遠いの?」


不安で眉が下がる。

「ほー、可愛いねえ。とにかくお嬢ちゃんは他の所で働いてもらう。さあ、来い」


男が思いっきりぐいっとミュゲの腕を引っ張った。

が、それよりも早くミュゲは男たちの頭の上を飛び越す。


「もしかして、おじさん達は悪い人なの?」


「いつの間に?」

「くそっ、捕まえろ!!」


何メートルもある魔虫を相手にしていたミュゲにとって、人である彼らの動きは酷く遅く感じた。

首の後ろをトントントンと叩くと、三人とも倒れたまま動かなくなった。

殺してはいない。気絶させただけだ。


「・・びっくりした・・。王都は悪い大人がいるのね。道を外れたらすぐにこんなに寄ってくるなんて、気をつけよう」


ミュゲは明るい大通りにでて、再び王宮を目指した。




「ふわーーーー!!! 大きい!! 高ーい」

初めて見た王宮の大きさに、つい声が出た。

ちょっと、大きな屋敷と思っていたが、王宮はピカピカと光っている巨大な建物だった。

例えるなら、眩しい塊だった。

領地には夕焼けに赤く燃えるアルガス山脈があるが、これも綺麗だった。



門を守っている騎士に声を掛ける。

「すみません。こちらで侍女として働くのですが、通してもらえませんか?」


「・・・・・。」

馬の上からチロリと一瞥しただけで、騎士は返事をしない。


「あれ? 聞こえなかったのかな?」

もう一度今度はもっと大きな声で尋ねたが、結果はさっきと同じだった。


困っていると、門の横にある建物から人が出てきた。


「お嬢さん。ここは高貴な方が通る門で、使用人には専用の通用口があるんだよ。そっちへ行けば入れてくれるよ」


(なんだ、それならそうと教えてくれてもいいのに)

ミュゲは不親切な騎士に怒りながらも、親切な人にお礼を言って、大きな門を後にする。

ぐるっと回って歩いて歩いて、やっと見つけた使用人通用口。


だが、ここもすぐには入れなかった。

侍女としての雇い主の書類と、推薦状がないからだ。

仕方なくチャーリーからの手紙を見せると、通用口の門番は慌ててどこかに消えていった。


待たされる事30分。


やっと帰ってきた門番に、案内されて入った建物は、王宮のピカピカ感が全くない、古い建物だ。


そして、その一室で待っていたのは、背の高い険しい顔の女性だった。

年のころは40歳だろうか。頭の髪の毛を高く結い上げて、まるで一本の『棒』のように見えた。

厳しい表情の女性は、眼鏡をクイっと持ち上げて、小さなミュゲを見下ろす。


散々待たされた挙げ句、怪しげな場所に連れてこられ、怖い女性に足の先から頭のてっぺんまで何往復もじろじろ見られ、ミュゲは観察されている。

まるで、胡散臭い物を見る目付きだ。


これは、追い返されるのだろうか?

と、ミュゲはどんどんと不安になってくる。

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