76.嫉妬もお強請りも可愛い(ベルSIDE)
弟妹が主役の宴であっても、ウェパルはヤキモチを焼かない。俺が誰かに奪われると思ったら、あんなに怒ったのにな。どうだ、可愛いだろう。自慢したい気持ちで、顔を正面に向けていた俺の首にウェパルが触れる。
頬を赤らめる愛らしい伴侶は、唇を狙ったのか。いや、二人きりの時と自分でも口にしていた。わざとずらしたのだろう。それにしても首とは……ほとんどの種族の急所であるため、求愛の意味があるのだが。
ざわっとした魔族の中で、今のウェパルの口付けの噂が広まっていく。特に止める気もないので放置した。さきほども、可愛い笑顔を振り撒いたウェパルに、皆がざわついていた。魅力的すぎる伴侶を持った俺は、本当に幸せだな。
ウェパルが隣にいれば、自然と表情が柔らかくなるらしい。吸血鬼の長であるヴラドが言うには、まったく別人のようだと。そんなに違う自覚はないが、ウェパルに厳しい顔を見せる気はない。その心持ちが影響しているのだろう。
過去の世界で、俺は異端だった。誰とも交流せず、孤高と表現すれば聞こえはいいが、孤独の中にいた。苛まれていたと言っても過言ではない。一人でいることに耐えられても、慣れることはなかった。
この世界に呼ばれて現れ、泣きながら手を伸ばすウェパルを助けて。にぱっと全開の笑顔を向けられた時、心臓を鷲掴みにされた。身も心も捧げて悔いはないと思う。ここまで信頼に満ちた笑顔を向けられたのは、記憶にある限り初めてだった。
「ベル様、あと何人?」
「そうだな、十人くらいだ」
五十年以上を生きて、未だ幼児のようなウェパルは、退屈してきたらしい。弟妹と大差なく感じられる。それでも頑張って表情を作り、俺の隣で相応しくあろうと努力する姿は立派だ。頭を撫で、額に口付けを贈った。
ぱちぱちと大きな目が瞬きし、嬉しそうにへらりと口が開く。この無防備で純粋な子を、誰が愛さずにいられるのか。思わず見惚れた数人を、きっちり記憶する。ウェパルの可愛さに気づくとは、見る目がある。だが絶対に渡さん。
「ベル様、ベル様。こないだの生焼けのお肉が食べたい」
ぺちぺちと腕を叩いて気を引く幼竜は、ご機嫌で尻尾を振る。誰かに懸想されているなど、考えもしないのだ。表面だけを炙った半生の肉を強請るウェパルに「わかった、一緒に焼こう」と約束する。
気の利くエルフの小娘が、肉を取り分けるよう指示した。あれは補佐官に向いているな。ヴラドは副官などサポートが得意そうだ。あれこれ判断しながら、ウェパルの背中を撫でた。棘がぺたんと後ろに流れる。気持ちよさそうな顔だった。
この顔を誰かに見せるのは腹立たしいが、この表情を俺がさせているのはいい気分だ。独占欲が強すぎる俺だが、ウェパルはそれでいいと言った。先日の嫉妬も愛らしく、何とも真っ直ぐで強い感情だったな。似合いではないか。
頬が緩むのが分かる。挨拶を続ける魔族の群れは短くなり、後少しで途絶える。そうしたらウェパルに肉を焼いてやろう。望み通り表面に強火を当て、半生の塊肉を頬張ればいい。可愛い伴侶の食事姿を想像するだけで、胸がいっぱいまで満たされる気がした。




