75.お祝いの席なのに、二人はケンカしてる
巨人のおにいさんは、お祖父ちゃん達だけじゃなくて僕にも「おめでとう」と言ってくれた。嬉しいから笑顔で「ありがとう」と返す。用意された席に座るレラジェとキマリスは飽きてきたみたい。レラジェがキマリスの尻尾を引っ張ったり、耳を掴んだりしていた。
キュー! 怒ったキマリスがレラジェを叩く。ムッとした顔でレラジェも反撃した。ただここで振るった手が、キマリスの目の近くにぶつかった。痛いのとびっくりしたので、キマリスが大泣きする。
「あらあら。元気すぎるのも困ったこと」
お母さんがキマリスを抱き寄せる。口でひょいっと摘まんで、ぽとりと体の上に落とした。するとレラジェが泣き出す。お母さんがキマリスを抱っこしたのが羨ましいのかな。困ったね。二人とも退屈なんだと思う。大人のご挨拶は、子どもには意味が分からないし。
「レラジェとキマリスは遊んでたら?」
そう提案したけれど、お祖父ちゃんが首を横に振った。
「祝われる本人がいなくてどうする。他族の子はきちんと座っていたのだが」
うーんと唸る。たぶんね、よそのお家の子は、一人だったと思うの。だからお母さんが隣にいると大人しくしていた。寝たりもしてたよ。レラジェとキマリスは二人で、並んでいるからちょっかい出しちゃうんだよ。僕はベル様にそう話した。
まだ子どもだけど、僕は気持ちが分かる気がする。奥さんのお仕事じゃなければ、あっちの子と一緒に水浴びとかしたいもん。でも僕は魔王のベル様の奥さんだから、きちんと大人のお話を聞ける。レラジェ達は生まれたばかりだし、無理じゃないかな。
「なるほど。ならば見えなければよいのではないか?」
うん? 見えない? 大きく首を傾げた僕をよそに、ベル様はお父さん達に話しかけた。何やら打ち合わせをした後、レラジェ達の席がなくなる。遊んでいいよ、という意味? 反対に首を傾げたら、笑ったベル様の手に受け止められた。
「首が落ちそうだ」
くすくす笑うなんて、酷い。ぷんと頬を膨らませたら、指先でぷすっと空気を抜かれた。その後ちゃんと謝ってくれたから、許す。僕は心の広い奥様になるんだ。
吸血鬼のおじさん達がざわっと騒がしかったけれど、何だろう? 僕を見て何か話したのに、すぐ逃げちゃった。変なの。
「これならケンカしないね」
ベル様は僕を抱っこ。後ろにお祖父ちゃんとお父さん、お母さんが並んでいた。お祖母ちゃんは皆にご挨拶したり、料理のお振る舞いに忙しい。
お父さんとお母さんの間に用意された弟と妹の席が、お母さんを挟んで左右に移動した。さらにお祖父ちゃんの隣にお母さんが移動したので、お父さんが一番外側になる。お母さんが間に挟まったので、二人はお互いが見えなくなった。
レラジェが弟の尻尾を引っ張れなくなるし、怒ったキマリスが彼女を叩き返すことも出来ない。でもお祝いに来てくれた人には、二人とも見えるの。凄いね。解決したことに手を叩いて喜ぶ僕は、大好きな旦那様の首に口付けをした。顔を前に向けてたベル様の口は届かないし……今は二人じゃないからね。




