54.ベル様と特別な景色を楽しむ
お肉は真っ赤で鮮やかな色をしていた。馬という生き物なんだって。この生き物、よく見たら人間が乗っている姿を見たかも? あの時は色のついた布や変なコブが背中にあった。口も紐が出ていたっけ。思い出しながら説明したら、ベル様が「同じ生き物だ」と頷く。
よく覚えていたなと褒められ、なぜすぐ気づかなかったのかな? と首を傾ける。理由は大きさだった。人間が乗っていた馬より、こっちの馬の方が大きい。それに首も足も太かった。人間が飼っていた馬は細くてお腹もシュッとしている。
残ったお肉をベル様は消してしまった。前にも同じ魔法を使ったけど、どこへ消えちゃったんだろう? 不思議できょろきょろしていたら、教えてもらえた。見えないけれど、すぐ近くにある場所だって。その魔法は特別だから、誰かに知られたらいけないの。
「わかった、僕はちゃんと黙っているよ」
誰かに聞かれても答えない。嘘はいけないから、知らないフリで黙っているの。そう伝えたら、それでいいと頭を撫でられた。お腹がいっぱいになった僕を抱いて、ベル様はすごい速さで移動する。寒い地域を抜けて、すぐに暖かい森に入った。
大きな木の根元にベル様が座り、僕がお膝に座る。食べた後に温かいと眠くなっちゃう。ベル様にしっかり抱き着いて、あふぅと欠伸をした。ベル様は僕の背中の棘を撫でながら、黄金の畑に向かわなかった理由を教えてくれた。
今の時期はまだ黄金色じゃないんだって。青い普通の草みたいな色で、月が三回か四回消えた後に金色に変わる。人間が育てている草で、先端に小さな実が付くこと。それまで時間があるから、いろいろ見て歩こうと思ったこと。
ベル様はこの世界じゃない場所で魔王様をしていた。だからこの世界をよく知らないと言う。案内できたらいいけれど、僕もよく知らない。ベル様は二人で新しい景色をいっぱい見ようと笑った。凄く幸せそうに見えて、僕もへらりと笑う。
嬉しいな。ベル様は僕と一緒に見たいと思ってくれたんだ。特別だよって言われた気分だった。
「火の海は火山にあるから、ウェパルは見慣れているかもしれないぞ」
「お父さんのところ?」
「違うが、似た景色だろう」
ふーん。でもベル様と見たら全然違うよ。特別な景色だもん。伝えてぎゅっと抱き着いた。お父さんやお母さんは好き。もちろん、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも同じだ。全部集めても、ベル様への好きには足りない気がした。
大きさが目に見えないから測れない。僕の中の大好きを全部足したくらいある。両手を広げて説明する間に、知らない山に移動していた。魔法で移動したのかな? お父さんが住んでいる山も、この匂いがする。
くんくんと鼻をひくつかせた。何かが腐ったような匂いなのに、僕は嫌いじゃない。山の途中で、匂いが強くなった。
「あ、お風呂」
湯気が出ている大きな水たまりを見つけた。指差した先に、大きなお風呂がある。ベル様が作ったお風呂が三つくらい。折角だから入っていくことにした。縁に黄色い飾りがついたお風呂は、濁った色をしていた。
ベル様が先に入り、僕を抱っこして肩まで沈む。深くないみたいで、座るとちょうどいいとベル様は言った。……残念だけど、僕は沈んじゃうみたい。ベル様にしっかりしがみ付いて、温まった。




