52.水晶の柱と光る亀の背中
氷の山へ向かう。魔法で移動したら一瞬だけど、手前から歩いて移動するの。僕はまだ歩くのが遅いから、途中まで抱っこしてもらった。
「びゅん、って行かないの?」
「楽しみが減るだろう。この近くに面白い場所がある」
どこかに寄るみたい。氷の山が最初かと思ってたよ。期待する僕の尻尾が大きく揺れる。
「こっちか」
何かを感じたベル様が左へ曲がった。氷の山は正面に見えていた。目指していた山を無視して、左へ歩くと洞窟がある。ベル様は迷いなく、その洞窟へ足を踏み入れた。
「ここ、誰のお家かな」
「住んでいる者はいないだろう」
途中で分かれ道があったので、ベル様は狭い方へ進む。最後は屈んで通り抜け、広くなった場所に出た。真っ暗で何も見えない。きょろきょろする僕だけど、だんだんと目が慣れてきた。
奥で何かが光っている。じっと見つめる僕の前で、大きな岩が動いた。びっくりして、ベル様の首にぎゅっとしがみ付く。恐る恐る振り返った。岩はよく見たら亀みたい。背中が光る亀?
「光苔か。この下だな」
ベル様は何か納得すると、亀の近くの地面を踵でトントンと叩いた。大地が割れて、何かが顔を出す。キラキラ光る何か……すごく綺麗だ。
「綺麗」
「水晶だ。少し持っていくか?」
「ううん。持って帰ったら綺麗が小さくなっちゃう」
ここで見るから綺麗なんだと思う。僕達のお家に置いたら、普通になっちゃうよ。綺麗さがなくなったら勿体無いから。ベル様は驚いた顔をして、首を傾げた。
「持って帰らないよ」
もう一度説明する。この水晶はここで生まれたから、この洞窟の子なの。無理に連れて行ったらダメなんだよ。
「ウェパルは純粋で、眩しいな」
ん? 僕も光ってるの? 手足を確認するけど、別に光ってないと思う。そういう意味じゃないんだが、とベル様が笑った。なんだか嬉しい。へらりと牙を見せて笑ったら、たくさん頭を撫でられた。
水晶がいっぱいある洞窟と、光る亀の背中。不思議な風景だな。亀の背中に生えているのは苔で、暗い場所で光るんだって。ベル様が住んでいた世界にもあったみたいなの。水晶は特別な波長がある。それを探したと聞いて、僕は目を閉じた。
何か感じるのかな……少しじっとしてみたけれど、僕には分からなかった。素直にそう告げたら、ベル様は「説明に困るんだが気配とは違う」と教えてくれる。魔力を感じるのとは違う方法で、そこにある! と知れるんだ。いつか僕も出来るようになりたい。
亀がのそのそと歩くたび、水晶に反射して光る。それがとても不思議な風景で、すごく綺麗で。ベル様に抱っこされた僕は、ずっと眺めていた。ベル様は絨毯を敷いて座り、黙って付き合ってくれる。
ぐぅ……お腹の鳴る音で洞窟から出る。この洞窟だけで3日も経っちゃった。近くで毛の長い牛に似た動物を捕まえて、丸焼きにして食べる。しっかり中まで火を通して、残りを持っていくことにした。
煙で臭くすると腐らなくて、長く食べられる。ベル様の知識は僕の知らないことが多くて、驚いちゃう。お肉の塊を抱っこした僕を抱っこして、ベル様はようやく氷の山へ足を向けた。




