43.特別な口付けがしたいの
いつも通り起きて顔を洗う。ご飯用の鳥は、ベル様が落としてくれた。羽ごと焼いて外の焦げた皮を剥いて、鍋に入れる。このお料理は、ベル様が昔食べていたんだって。
湖の近くに生えている匂いがする草をいくつか選んで入れて、後は煮えるのを待つだけ。気になって何度も蓋を開けていたら、ベル様に後ろから捕獲された。
「イタズラばかりだな」
顔は見えないけど声は笑ってて、じたばたと両手足を動かす。体がぴたりと触れ合ってないから、なんだか怖い。高いわけじゃないんだけど。
「イタズラじゃないもん」
「火傷はしないだろうが、危ないぞ」
熱いお湯が掛かったら、お鍋の具材になるぞ。そう言われてびっくりした。危ない、お料理終わるまで近づかないようにしよう。大事な尻尾がご飯になっちゃう。
ドラゴンにとって尻尾は大事な部分で、立派な尻尾があるとモテる。お父さんもお母さんの尻尾に惚れて求愛したし、お祖父ちゃんも同じ。僕はベル様がいるけど、求愛の時は尻尾を褒めてほしい。だから綺麗な尻尾を保ちたかった。
ベル様が抱き寄せてくれたので、変な不安は消えた。振り返ると、笑いながら額に唇が当たる。口付けは普段からしていて、僕は最近物足りない。口同士も好きだけど、もっと特別なのが欲しかった。
ベル様には言ってない。前に吸血鬼のおねえさんが、耳長のおにいさんと唇をくっつけてた。その時は、べろも出ていたんだ。絡めて吸って、じゅるっと音がした。特別な感じで、ドキドキしながら隠れてみていたの。
あれを僕もしてみたい。でも恥ずかしくて言えなかった。嫌われても嫌だし、僕の口は人型じゃないから、べろを舐めるのは難しいかもしれない。いろいろ考えていたら、お鍋の中の鳥が煮えた。
「あーん、だ。ウェパル」
ベル様は熱い鍋に手を入れて、お肉を摘む。湯気がいっぱい出てるそれを、僕はがぶりと齧った。中の骨もバリバリと噛み砕く。美味しい。ベル様は骨を食べないんだ。掴んだお肉をそっと差し出すと、ベル様は直接食べた。
僕の手から食べるの。ドラゴンが食べさせ合うのは、番の証拠だった。僕は伴侶で番で奥さんだから、ベル様に食べてもらうのも、食べさせてもらうのも嬉しい。
ちゅっと音をさせて、骨を持っている僕の手に口付けされた。どきっとする。首を傾げて顔を近づけた。口付けしたい。口と口を合わせて、べろを舐めたいな。
気づいたベル様は、嫌な顔をしなかった。口の先が触れた時、べろを出してみる。先が触れたら、ベル様は驚いた顔をして……。慌てて引っ込めようとしたのに、じゅるると吸われた。びっくりして引っ込めたら、牙で切っちゃった。
べろを追いかけてきた、ベル様の舌が絡まって……今度は僕が目を見開いた。僕、特別な口付けをしてる?
「大変です、人間どもが……っ! と、失礼しました」
飛び込んだのは翼の人だ。両腕が翼になっているので、今は見張りのお仕事をしていた。報告の途中で後ろを向いてしまう。きょとんとした僕の頭を撫でながら、ベル様はくすくすと笑った。
「構わん、報告しろ」
「は、はい。人間どもが攻めてきました。その数、およそ一万です」
「ご苦労」
ベル様はきりっとした顔で返す。翼の人は他の魔族に報告するために飛んでいった。
「戦うの?」
「そうだな、いや……蹴散らすの方が近い」
僕には違いが分からないけど、ベル様が勝つことは分かる。ところで、さっきの口付けは特別なので合ってる?




