42.大きくなれなくても奥さん
ドラゴンは成長がゆっくりだ。僕より小さい竜はいなくて、末っ子なの。だから比べたことがなくて、よく理解できていなかった。
「一般的な竜の半分しかないな」
ぽつりと呟いたお祖父ちゃんの言葉、僕は半分しかないのかな。首を傾げた僕に気づいて、説明してくれた。本当は倍くらい大きいんだって。倍は僕が二人分……それだけあれば、立ち上がるとベル様より大きいかも。
「なんで僕は小さいの?」
お祖父ちゃんも答えは知らない。お母さん達も知らないみたい。僕はいつ大きくなれるのかな。このまま小さかったら、ずっと奥さんになれないよ。心配になった僕は鼻を啜る。
泣きそう。でも悲しくないのに変なの。ベル様が僕に頬を擦り寄せ、不思議そうに呟いた。
「この世界の竜の成長は早いのだな」
きょとんとした僕が「ベル様が知ってるドラゴンはゆっくり?」と尋ねる。お祖父ちゃんも興味ありそうだった。お父さんとお母さんは、目を丸くして驚いている。皆が知らないことを知ってるなんて、さすがはベル様だ。
「召喚される前の世界は、ドラゴンが成体になるのに千年ほどかかった。ウェパルもその類ではないか?」
魔力の大きい生き物は成長がゆっくりで、ドラゴンはその代表的な生き物だった。ベル様はそう言って、僕の背中を撫でる。そこは棘があるのに、ベル様は平気だった。いつも優しく撫でてくれる。
棘の両側のところ、撫でてもらうと気持ちいんだよね。ぺたりと耳を横に伏せて、尻尾を揺らす。
「千年ですか、それは逆にすごいですな。この世界では二百年ほどですぞ」
僕は五十五年だから、お祖父ちゃんは小さいと心配したのか。納得して大きく頷いた。ベル様によれば、僕の魔力はお祖父ちゃんより大きくなるみたい。たくさんあるから、ゆっくり大きくなる。
ベル様の説明だと、先に体が大きくなるのは危険なんだって。器が大きくなると魔力が足りなくて、動けなくなる。だから魔力が満ちたら、その分だけ体は成長してきた。僕の体が小さいのは、まだ魔力が大きくなってる最中だから。
「じゃあ、奥さんになるの遅くなっちゃう」
心配になった。他に早く大きくなれるドラゴンがいたら、ベル様がその子を選ぶかも。へにゃりと尻尾を垂らした僕の額に、口付けがひとつ。顔を上げると、ご褒美だともう一つ貰った。二度目は頬だよ。
「遅くてもいいさ。俺はうんざりするほど長生きだからな」
すでに何千年も生きてきて、まだ先は長い。だから一緒に長く過ごせる伴侶が嬉しい。そう言ってもらえた。
「ありがとう、ベル様。僕はいい奥さんになるね」
「悪い奥さんでもいいさ。愛しているぞ、ウェパル」
ちゅっと音がする口付けだ! 口のすぐ隣に貰った。直接口にするのは、二人の時って決めたんだ。だから我慢。ちらっとお祖父ちゃんを見ちゃった。顔を背けてくれないかな? そうしたらズルして、口付けしちゃうんだけど。
凝視するお父さんも、あっち向いてて。お母さんがにっこり笑って、お父さんの顔を横に向けた。いま、グキッて変な音したけど平気? なぜかお祖父ちゃんが青い顔色になって、慌てて後ろを向く。
振り返ってもベル様は笑ってるし、よく分からないや。皆が見ていない隙に、僕も背伸びして口付けをした。




