33.人間に子どもが攫われた!
次の日もお魚だと思った。だって、たくさん獲れたから。氷も溶けちゃうよね。でも平気だった。全然溶けていない。
お鍋のお魚も美味しかった。思い出しながら湖で顔を洗う。出汁をとったお魚の骨は、硬くて食べられないので地面に埋めた。ベル様が開けた穴に、僕が骨を置いて足で土を蹴って埋めたんだ。共同作業っていうの。
「失礼する。事件だ」
飛び込んできたのは、吸血鬼のおじさんだった。翼があって暗くても飛べるから、よく皆に連絡を回す仕事をしてくれる。おじさんは怖い顔をして、ベル様に小さな声で報告をした。頷いたベル様が僕を振り返る。
「今日は両親といてくれるか?」
「やだ」
これは我が侭じゃないよ。僕は正しいもん。ドラゴンはね、ベル様が思ってるより耳がいい。だから聞こえていたよ。子どもが人間に攫われたんだって。僕はお母さん達といれば安全? 違う。前もお母さんといたのに呼ばれたから。
ベル様と一緒がいい。いろんな言葉を選んで説明した。困ったような顔をしたベル様に、吸血鬼のおじさんが援護してくれる。
「最強の魔王陛下の腕が、一番安全だと思うが」
世界で一番安全な場所だと言いきられ、違うと否定できないベル様は大きく息を吐き出した。僕を手招きする。てくてくと近づいて、両手を持ち上げた。脇を掴んで抱き上げ、腕の中で頬を擦り寄せる。
僕だって戦える。強いドラゴンの子だ。ブレスはまだ出来ないけど、助かった子を撫でるお手伝いもする。だから離れないでほしかった。僕はベル様と一緒にいたい。
「わかった。何があっても離れるな」
「うん」
吸血鬼のおじさんに「ありがとう」を伝えると、ひらりと手を振って飛んでいった。まだ別の種族へ連絡するんだって。他にも被害があれば、後で連絡がくるみたい。
他の誰かと一緒に行くのかと思ったけど、ベル様は自分達だけでいいと笑った。強いから自信があるんだと思う。それに早くしないと、子どもが不安になるから。ベル様は本当に優しい。
目を閉じて開く。いつもと同じ手順で移動し、僕は驚いた。暗い部屋は窓がない。その部屋の奥に檻があった。縦に鉄の棒がいっぱい刺さって出られない場所が、檻。出してと泣くのは耳長の森の子、暴れて鎖を噛み切ろうとしている魔狼の子。獣人の女の子は首輪を引っ張っていた。
「数が足りない」
全部で六人いるけど、いなくなったのは八人。あと二人足りないとベル様は眉を寄せた。長い黒い髪を一本引き抜いて、ベル様は魔力を流す。そっくりのベル様が現れた。
「すごい!」
「探せ」
命じたベル様に、もう一人のベル様が頭を下げて消えた。足元の影にするすると入っていく。移動したのかな? 最後に見えなくなる前、僕はベル様達の違いに気づいた。教えたらよく見つけたって褒めてくれるかな。
わくわくしながら、ベル様の耳に口を寄せる。あのね……言いかけた言葉が終わる前に、僕は知らない場所に尻餅をついた。
あれ? また呼ばれたの? でも声は聞こえなかったのに。首を傾げた僕に、人間が鎖を持って近づく。唸ってばさっと翼を広げた。まだ小さいけど、僕だってドラゴンなんだぞ!




