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かつて世界には、英雄たちがいた。
人類を存続、繁栄を守り、聖なる道へと導く勇者。
星の数ほどの魔術を扱い、全能と謳われる賢者など....
その誰しもが遺憾なく才能や技術、知識を活かし、世界に名を轟かせていた。
そんな中、ある二十人の英雄にある依頼が舞い降りた。
その内容は近頃現れた魔王を討伐して欲しいというものだった。
それを引き受けた英雄たちは、一か所に拠点を設け、世界中を周りながら魔王軍に対処していった。
東では魔王軍四天王、悪魔公ルデゥーテを打倒した。
西では同じく四天王、吸血鬼の真祖マリア・イェクルト・シャンティローゼを打ち滅ぼした。
まさしく快進撃、英雄たちは次々に魔王軍を駆逐し、倒していった。
そして魔王軍の幹部とすべて倒し、遂に最終決戦。
世界の最果て魔王城にて、魔王アニフィス・ディトアとの戦いが訪れる。
世界の運命をかけた一戦。
そこで英雄たちは―――――――――――――――――――――
――――――――――――――――全滅した。
◇
意識が覚醒へと導かれていく。
目を開くのは何だか久しぶりな気がした。
朝か....そういえばいつ寝たっけ?
確か魔王との決戦があって....ッ!?みんなは無事か!?リースは!?....
俺は今、どうなっている?
瞼が持ち上がると同時に、今までに感じたことのない眩しさを感じ、目を眇めてしまう。
眩しい....それになんだ声がする....聞きなれない声、魔族か?
「奥様、おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
「はぁはぁ....ほんとだぁ....かわいぃ....初めまして、お母さんだよ」
はぁ?お母さん?
母親なんてとっくの昔に死んで――――――
「あなた見て....こんなにもかわいい....この子をちゃんと守ってあげないとね」
「あぁ勿論だとも、君と共に、この子を守り育てていこう」
いやちょっと待て、何かおかしい。
さっきから俺ずっと泣いてるし、泣き方も赤ん坊みたいだ。
息がうまく吸えない、気管が細く呼吸し慣れてない感覚がある。
そして巨人に抱きかかえられているかのような温もりは....まさか....
「あなた、名前は決めた?」
「当然。三日三晩寝ずに考えた名だ。きっと君もこの子も気に入ってくれるはずだ」
いやいや、マジでそんなことあんのか。
おれが600年研究してきてもそんな魔法存在してなかったぞ。
「アルベート。この子の名はアルベート・クライアだ」
「アルベート....いい名前。よろしくね、アルベート」
二十人の英雄が一人、魔導士イデア・メイガス。
またの名を<北の魔人>。
そんな彼は、今日この時―――――――――――――――
―――――――――――アルベート・クライアに転生した。