波間のセピアとひとり
今日もやっぱりさ、ひとりの部屋で鶴を折ってたんだ。
こういうふうにしてるのもそろそろ長くなったから、折るための紙は色々たくさん増えてるんだけど。
例えば、宝石みたいな模様の青い紙とか、バンダナみたいな模様の茶色い紙とか、信玄餅の包み紙みたいな模様の青緑色の紙とか。
あと、五線譜がめいっぱい伸びた薄いセピア色の紙とか、Chapter1の文字から始まる知らない物語が並び立った英語の紙とか。
他にもいっぱい色とか形があるんだけどね。
例えば、なんかほら。
この模様が宝石じゃなくて、見上げると落っこちちゃいそうなくらい深い空だったり。
この模様がバンダナじゃなくて、海みたいに燃える砂の浜だったり。
この模様が信玄餅の包み紙じゃなくて、ひと夏の冒険でもできそうな森の青だったり。
この五線譜をたどったら、あの日聴いたあの歌がきこえてきたり。
この物語をたどったら、ひとりのおじいさんと、またひとりの男の子と出会えたり。
そんなことがあったりしないかなあって。
あればなあって。
思ったりしたんだ。
ほんとうに、泣きそうなくらいね。
でも、あんまり考えると寂しいから。
あんまり寂しいと、いよいよ出られなくなるから。
*****
今日はお昼で学校が終わったから、久しぶりに軋む自転車を人のいる方に向けて行ってみたんだ。
ペダルを漕いでるあいだ、さっきあいつに言ったでたらめな言葉の形のまま、口が動かなくて少しだけ焦ったりして。
取り忘れの鍵をポケットにしまって、ワンテンポ遅れて開くドアをくぐって、知ってるような知らないような顔をなるべく見ないようにして。
そうやって歩いて、止まって、歩いて、来週の日曜の予定を思い出して、また止まって、適当にページをめくってみたりして。
BGMが知ってる曲に変わって、それが行間に流れ込んできちゃったりして。
また歩いて、耽る物思いはあそこに置き去り、結局何も買わずに店を出て。
隣の隣の自転車が強い風で倒れてて、それを尻目にリュックに手を突っ込んで、すぐに思い出して。
またひとつ自転車が軋んで。
この場所では、こんなことだけ。
そのまま帰り道にまた思い出して、自転車をとめて違うドアをくぐったんだ。
もう一度そのドアをくぐる頃には、折るための紙がまたいくつも手のなかに増えてさ。
例えば、ミラーボールからそのまま剥がしてきたみたいにハイカラに光る銀色の紙とか、8bitの画面越しに咲いたみたいな花が散らばる紙とか、また違う柄のバンダナみたいな模様の水色の紙とか。
あと、五線譜がめいっぱい伸びた薄いピンク色の紙とか、新聞みたいに小さい文字がめいっぱい並び立った英語の紙とか。
もう折っても折ってもどうしようもできないくらいまで増えちゃって。
いっそ、
もう僕はひとりの部屋で、どこにでも行けるんじゃないかとまで思う。
でも、そんなのは嫌だなあ、とも思う。
口が開かなくなるから。
寂しいから。
あんまり寂しいと、いよいよ出られなくなるから。
どうも、瑪瑙です。
満足していただけたら嬉しいです。