ネコの涙
久しぶりに実家に帰ったかのような感覚で目が覚めた。
白い部屋の一室で窓から吹く風を受ける。薬品の匂いが鼻に抜けていく。
ベッドに横たわるオレは隊長に訊いた。
「・・・どこっすか、ここ」
「病院だ」
視界の端にプラチナブロンドの、泣いているネコが映ったような気がした。
とても眠い・・・
手術を受けた後、一週間眠っていたらしい。三日目には意識はあったと聞かされたがほとんど記憶はない。それを認識できるようになったのが今朝だ。
「ギン」
ネコが俺の頬に手を寄せる。
「何でしょう。お嬢様」
「何でじゃないよ」
青い瞳が滲む。プラチナブロンドの彼女が俺の肩に寄り縋った。
服に染み込む涙は尋常じゃないほど熱い。隊長の言う主の恥という意味が分かった。
「どれだけ心配させるの!!」
それが答えだった。世間体など関係ない。オレは主人を悲しませた。
「ネコ。大丈夫。オレは生きてる」
もたれかかる頭を抱いてそう告げた。
「あー、うん。ンッ」
オレ達の様子を見ていたクロさんが咳払いをした後に声を上げる。
「これから検査っがある。竜胆にだな、あま、あまり、負担をかか、かけるな」
助かった命を手放すことを意識させるほどの形相をしたクロさんの視線がオレに向けられている。
シスコン、と頭に浮かんだ言葉を口に出してしまえばオレは二度と吾妻の護衛を名乗れないだろう。
「一応の検査さ!着替えるからまた後で、な!」
ニカリと笑いオレはネコを力強く抱きしめる。クロさんが修羅の如き表情でギリギリと歯を食いしばっているのが見える。あなたのこと嫌いじゃないけど、この場にはいないでほしかったなぁ。
しばらくして落ち着いたネコが血走る姉の目に気づくと、クロさんを連れて部屋を後にした。