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闇珠

伝統的な造りをした木製のテーブルにクロさんがカップを置く。

「ありがとうございます」

机と揃いのしっかりとした椅子に座りながらオレは礼を言った。

それとは対照的に簡素な造りの丸椅子が備え付けてあるデスクにクロさんは自分のカップを置く。

開け放たれた窓から吹き込む一陣の風が、青い目の彼女が羽織っている薄手のカーデガンをなびかせた。

絵画のようなその光景にオレは目を奪われていた。

「おい」

呆けているオレの意識を絵画の美女が引き戻す。

「これから話すことはネコには伝えるなよ」

「承知いたしました」

オレの返事を確認したクロさんが口を開く。

「アンジュはアタシ達とは血が繋がっていない」

ああ、やっぱりと思ったのが表情に出ていたのか『勘のいい男だ』と指摘される。

「少しかいつまんで説明する。質問は最後にしろ」

そう言ったクロさんが淡々と語り始めた。



アンジュの両親がすでに亡くなっていること。

彼女が藪中家の養子であること。

クロさんは淡々とその情報をオレの前に並べた。本当に、ただ淡々と。


「吾妻家には代々女しか生まれない。必然的に女系の系譜なんだ」

「藪中家に嫁いだ叔母・・・アタシ達の母の妹に当たる人は不妊だった」

「父は・・・お前にとって雇用主のアランはネコを藪中家に差し出すつもりだった。・・・アタシはもう藪中家に関われなかったし、幼いネコの方が都合が良かった」

「ネコが4つの時にアンジュの両親が死んだ」

「アタシ達は選んだんだよ。アンジュを藪中家の生贄にすることを」

まるで要領を得ない説明を聞き終えたオレは一点、それが気になり質問をする。

「吾妻家にとってアンジュって何なんですか?」

過ぎた言葉を詫びようとしたオレをクロさんは手で制す。

「お前が何処まで知っているのかカマをかけた」

意を決した表情を見せたクロさんが言葉を続ける。

「ちゃんと話してやるよ。アンジュの出生と、アタシ達の負い目を」

冷めたコーヒーをスプーンでかき回しながらクロさんが言葉を紡ぎ出す。

「吾妻家はテールグループ創業者の家系、いわば財界のトップ集団の一派だ」

日本国民なら子供でも知っていることだ。

「対して藪中家は政界に通じる・・・国の象徴の一派だ。暗部の方だが」

「国の象徴って・・・」

「お前が思い浮かべているとおりの存在だ。黙って聞け」

オレの言葉を遮りクロさんが続ける。

「叔母さんのはよくある政略結婚だ。アタシもそれに関しては当然のことだと思っている。ただ」

一度そこで言葉を切り、かき回していたコーヒーの渦が収まるのを見届けたクロさんが再び口を開く。

「さっき言った通り叔母さんには子供が生まれなかった。だが吾妻家としても藪中家としても、吾妻の名を冠した後継ぎは何としても必要だった」

「だから最初はネコを養子にしようとした訳ですね」

オレの言葉にクロさんがコクリと頷く。ただ未だにアンジュの名前は出てこない。

その疑問に応じるようにクロさんが言った。

「アタシの親父・・・アランがフランスの外国人部隊に所属していたのは知っているよな」

「ええ、そこで出会ったクロさんのお母様との馴れ初めはソラで言えるくらい聞かされてます」

オレの返事を受け、ふんと鼻を鳴らした金髪の美女が続ける。

「お前の隊長・・・エドガーも同じ部隊にいたことは知っているか?」

「存じ上げません」

空気が重くなってきたことを感じながら返事をする。

「親父が吾妻の婿養子に迎えられた時、エドガーと一緒に来日した。アンジュの父親・・・二十一乱歩にそいちらんぽも」

故人の名前を上げられ興味はあるが、クロさんが質問し辛い空気を作り出しているのはオレにも分かる。

「親父がテールグループ総轄に就き、エドガーが吾妻家の護衛、二十一にそいちが藪中家の守護者ガーディアンになるはずだった」

黒い液体の水面に映る自身を見つめながらクロさんが先を続けた。

「エドガーから聞いたままを話す。それが吾妻の罪だ」

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