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吾妻猫の外遊:フランス編

「いえーい!」

凱旋門を背後に自撮りをするネコの横で笑顔を作る。

手に持ったスマホを一緒に確認する。

屈託ない笑顔を見せるプラチナブロンドの隣に、ぎこちない顔をした男が写っていた。

「ギンの顔、うけるっ」

「うん?」

生返事をしたオレの口角を指で釣り上げたネコが言う。

「もう一回撮るから!」

オレの肩に手を回すネコが、左手に持つスマホのボタンを押した。

その動作にオレは隊長とのやり取りを思い返す。




「フランスではお前にエスコートを任せる」

「一人で護衛しろってことですか?」

聞き返したオレに隊長が告げる。

「お前はお嬢様と行動を共にしろ」

「は?」

思わず変な声が出た。

「英語ならともかく、フランス語は全く分かりませんよ!?」

「しばらくはお嬢様に頼っていい。少しずつ覚えろ」

「オレは吾妻家の護衛としてですねぇ」

「これは命令だ。警戒を怠らず友人として振る舞え」

オレの反論を遮って隊長が告げた。

一ヶ月滞在したイギリスで、オレは吾妻家の一員の自覚と成長を感じていた。

それを否定するような言動に納得がいかないながらも渋々答える。

「分かりましたよ」

オレの反応に隊長がふっと笑顔を作る。

「自然体でいることも必要な技術だ」

全てを優しく包み込むような表情に、自分がガキだということを思い知らされた。




「明日のモンサンミッシェル楽しみだね」

一日中パリを回ったネコが腕を絡ませて言う。

「ん、ああ」

自分でも分かるほどひくついている笑顔でオレは答えた。

周囲への警戒を怠る訳にはいかない状況で、これはきつい。

吾妻家の護衛の自覚など一瞬にしてぶっ飛んでいった。

可愛い。

自分はエスコートなのだと頭で警鐘を鳴らすが、それを忘れさせるほどの甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「ペット連れてけるみたいだからナツメも一緒なら良かったね」

蕩けそうになる脳を自制し、何とか自然なカップルを装う。

「猫はそんなに連れまわせないよー」

「ん、うん、アイツもすっかり家猫になりまし・・・なったね」

クルクルと表情を変えるネコにオレは理性を失っていた。

何を話したかも思い出せなくなった頃、ネコが告げた。

「今日回ったトコも、明日行くトコもパパとママが大切にしてた場所なの」

「うん、うん、そうなんだ」

言葉さえ上手く出ない程、幸福に疲弊しているオレは思い出せなかった。

オッサンに会う度、聞かされていたネコの母親の話を。




ネコを宿まで送ったオレは、ミーティングのため同じホテルに泊まる隊長の部屋へ向かう。

「ご苦労だった。竜胆」

「まだ鼻の下、伸びてるよー?」

テーブルを囲う島崎の姐さんに言われたオレは襟を正す。

「報告に上がりました」

「いい、いい。そんなかたっ苦しいのは」

空のグラスを見て隊長に問いかける。

「姐さん、飲んでます?」

「いや、素面だ」

姐さんの態度に疑問を抱きながらオレは椅子に座った。

「ネコちゃんとのデート楽しかったー?」

「はい!?オレは護衛としてですねぇ!!いたわけで!!」

「黙れ」

ダークスーツの男が厳めしい顔つきで告げる。

ただその言葉は島崎の姐さんに向けられていた。

それ以上何も言わない姐さんを見てオレは言う。

「お嬢様との時間が楽しかったのは事実ですよ!オレの不備を姐さんのせいにしないで下さい!」

「竜胆」

オレの目を見て隊長が告げる。

「お嬢様の警護を気にする必要はない。明日はベルギー行きの鉄道に乗る予定だが」

一息ついた隊長が言った。

「溺れている子供を助けるな」

「何の話ですか?」

「ただのおまじないだ」

冗談のような言葉と裏腹に、隊長は反論など許さないほど深刻な表情をしていた。

赤みを帯びた茶色い瞳に返事をする。

「了解致しました!」

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