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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短篇(ホラー)

学校の階段の怪談

 ()()が現れるのはいつも、南棟三階から四階への階段の途中、踊り場からすこし上のあたりだという。


 ショートカットの女生徒が、手すりに寄りかかるようにして、ゆっくりゆっくり登っている。きっと、足を挫いているのだろう。


 ──けれどけっして、彼女を追い抜いてはいけない。


 追い抜いたら最後。階段は、いくら登っても終わらなくなる。すぐそこに四階が見えているのに、まちがいなく階段を踏みしめて一段ずつ登っているのに、いつまでもいつまでも辿りつけなくなるのだ。


 そうして疲れ果てたころ、背後から女の声が聞こえてくるのだ。


「わたしのほうが、はやいのに……」


 振り向けば、あなたの後ろにはこれまで登ってきたぶんの長い長い階段が、昏い地の底までも続いているのだ。そして遥か底の方に、あの女生徒がうつ伏せで倒れているのが見える。


 彼女のすらりと長い両手両足は、それぞれが別々の、ありえない方角にねじ曲がっていた。


 恐ろしいのに、目が離せない。すると彼女の四肢がびくびくと、やがてばたばたと激しく蠢きはじめ、それを使って地を這う蟲のように、猛烈な勢いで階段を登り始めた。


 人間の関節の可動域を完全に逸脱した動きで這い登ってくる彼女は、そのたび階段の角に細く白いあごをぶつけるから、しだいに口が裂けて血にまみれていく……。 


 そしてあっと言う間にすぐ近くまで登ってきた彼女は──そのままの勢いで真横を追い越して行ってしまうのだった。


 安堵して、きっと幻覚だったのだと振り払うように前を向いたあなたの目のまえ数センチに──



 赤く裂けた口で笑う彼女の顔があった。



 驚きと恐怖に思わず後退ったあなたは、階段を踏み外してしまう。

 地の底まで続く階段を、あなたは転がり落ちるのだ。

 いったいどこまで落ちたら止まるのか、痣は何箇所できるのか、骨は何本折れるのか。



 ──そして命をいくつ、落とすのか。






 これが、私の母校に伝わる怪談です。

 信じるも信じないもあなた次第、というやつです。


 ただ、ここからは単なる事実なのですが……


 もう十年以上も前のこと、当時の陸上部エースだったN子が、そこで足を踏み外し、脚を骨折して選手生命を絶たれたそうです。

 不登校になり自首退学した彼女が、それからどうなったかは定かではありません。



 ……ただ……



 後日、ひとりの男子生徒がまったく同じ場所で足を踏み外し、緊急搬送されたという記録が残っています。


 まるで百段の階段を転げ落ちたような複雑骨折と全身打撲を負った彼は、N子に許しを請うようなうわごとを繰り返し、なぜか麻酔も効かず三日三晩を苦しみぬいて、ついには帰らぬ人となりました。



 ──彼は、陸上部でN子のライバルだった女生徒の、元交際相手でした。

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