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第十三話 夜祭り

六月の候、うんぬんかんぬん…


更新が遅くなり、誠に誠に申し訳ございません。更新停止は絶対にしないので、何卒お許しを!

「春なのに冬祭り、開幕いたしまぁぁーす!」


夜になった。


噴水の広場で適当に建てられた売店は隅に寄せられて、その真ん中に僕達はいる。


雪を溶かすほどの熱気を帯びた街の人たちは、手でもなんでも打ち鳴らす。


広場には出てきてない人たちも窓から身を乗り出して、鍋をお玉で叩いていた。


「ところでさ、お祭り開いたは良いけど、どうやって魔力集めるの?」


「ほら、そこ見て」


インが指を向けた先には、石に念を送っているナフがいた。


一番目立つ屋台の中、座布団で小高くなった椅子の上に目を瞑って座ってる。


けど、さっぱり分からない。


念じるだけで魔力が溜まるなら、別にお祭りなんて開かなくて良いんじゃん。


「ナフは勝手に念じてるだけよ。あそこの屋台で、みんなから協力を募るの。協力すれば、食事券まで貰えるのよ」


「最高じゃん」


「え?」


「さ、い、こ、う、じゃ、ん!」


いまだ収まらない喧騒の尾ひれに、負けじと声を張る。


相手の声にずっと意識を向けとかないと、すぐに聞こえなくなっちゃうよ。


「そこの一番目立つ屋台で魔力を送ってくださればぁー、出店で使えるお食事券を差し上げまぁーす。皆さま奮ってご参加くださぁーい」


スタンプラリーみたいなノリで参加を勧めてるけど、実は街の人達ほとんど全員の命がかかってるんだよね。


すごいデスゲームだよほんと。


「じゃ、私たちはやることもないしお祭り周りますか」


「なに?」


「お祭り、周りましょ」


インが顔を寄せて、僕の耳元でささやく。


こそばゆい。耳の奥の、鼓膜のもっと深くで聞こえた気がした。


いつもと同じ声なのに、全然感じ方が違う。


慣れない体験に、今でも鼓膜がざわざわしてるよ。


僕の耳から顔を離したインは、目を合わせたのを確認すると行き先へ指を向けた。それに頷くと、彼女はくるりと回って歩き出す。


指の先に何があるのかなんて確認してない。


もう一度耳元で喋られると思うとなんとなく気恥ずかしかったからね。


どこか尋ねれば答えてくれたんだろうけどさ。


僕の弱点がまた見つかったよ。


「皆さぁーん、食事券は十分な数をご用意しておりますのでー、焦らずにお並びくださぁーい」


拡声器を持った受付嬢さんは、祭りの始まりを宣言した場所からずっと案内を続けている。


屋台の方を見てみると、ナフと街の人たちとの中継地点のように手を繋いだフラスコが、額から汗を流していた。


ちなみに、その汗を拭くのはギウンの係り。


タオルを持って、若干の手持ち無沙汰感を出しながら、時折並ぶ人を数えている。


え、なに?右?


僕と目があったギウンが大きく右を指すから向いてみると、そこには何かを叫んでいるインがいた。


「お、い、て、く、わ、よ」


それは困る。


ギウンに軽く手を振って、急ぎ足でインのもとへ向かう。


彼女のいる場所は、僕がいたところよりも少し静かだった。


「騒がしいのも好きだけど、ずっといれば耳がおかしくなりそうね」


「ここは特にうるさいよね。祭りの始まりなんて、耳がなくなるかと思った」


僕の言葉にうんうんと同意するように深めに頷くと、インは広場の方を見て、


「どの順番でまわりたい?」


「僕はりんご飴食べたいかなー。そのあと、土産屋も行きたいかも」


「りんご飴は結構アリね。ナフのとこの列がはける前に、早めに買いに行きましょ。そのあと、食事券も貰わなきゃ」


「僕の外套リバーシブルだから、深めに被れば二周できるかも」


「私も、顔を隠せばなんとか…どう?」


「すごいよイン、全然分からない。もうちょっと声とか低くしたら、絶対バレないよ」


インがふふんと言って、胸を張る。その拍子に目元まで隠れていた顔の全部が出た。


吐息が白い。熱気はあっても、まだまだ冬の街だ。


「それにしても、よく食材あったよね」


「そうね。誰かが大量の食材を持ち込んだらしいけど、そこはもう、運としか言いようがないんじゃない?まさに、不幸中の幸いよ」


「ふふん、甘いねイン。僕には、事件の香りがするよ」


「あっそ」


目も合わせられずに、僕の推理はあえなく散った。


そうだよね。黒幕、あの洞窟の龍だもんね。天候種が居座ってるから、雪が降ってるんだもんね。


そもそも、ギルドには定価で食材が卸されたらしいし、ただの良い人じゃん。


けど、祭りが出来るだけの食材を持ち込むなんて只者じゃないよね。


絶対、荷台鞄は持ってるよ。


「この量の食材だったら、荷台鞄じゃなくて、屋敷鞄まで行くんじゃない?」


「屋敷鞄って、とんでもないじゃん」


「とんでもないわよ」


肩から下げた、皮の鞄を撫でる。


見た目以上に物が入る鞄は、荷台鞄と呼ばれている。それ以上入るものは屋敷鞄とも。


人が珍しく量産できたクダリモノで、容量が小さなものならそうでもないけど、大きければかなりお高い。


そして、僕がぶら下げてるこの皮鞄も、実は荷台鞄なんだよね。


それも、少し大きめの。


冒険の時に、家宝持ち出して来ちゃった。


「あら、ずいぶんな美人さんじゃないか。割れた飴たくさん付けたげるよ」


「いいの?ありがと、お姉さん」


「まぁた、最近の若い子は年寄りの扱いがよく分かってて困るわねぇ。ほら、これも付けたげる」


りんご飴の屋台のおばさんは、デコボコしたりんご飴と、一つだけ串に刺されたいちご飴をインの前に差し出した。


その姿を見て、奥で飴を付けていたおじさんが興味ありげにこちらを振り向く。


「ん?よく見りゃ海で見た美人さんと、彼氏面のにぃちゃんじゃねぇか。おあついねぇ、こんなに寒いってのに。まぁでもよ、俺と母ちゃんだって若い時はそらもう、寒さなんて関係なく…」


「何語ってんだいあんたは。ごめんね、この人は何でも色恋にしたがるんだよ」


「あはは、それについては僕も悪いから。いらぬ噂は立てるなって叱られちゃった」


「おじさんも、ほどほどにね」


インが苦笑いしながらイチゴ飴をかじる。軽く頷くと、次はそのまま一口で頬張った。


僕に向かってしきりに頷いてくるのを見るに、結構気に入ったみたい。


口の中で飴を割る音がここまで聞こえる。なんだか、僕もイチゴ飴食べたくなって来ちゃったよ。


「そういえばよ、空の大穴はどうだった?怪我せず行けたか?」


「そうそう、そうなんだよ。おじさんの教えてもらった場所にでっかいりゅ…」


目にも止まらぬ速さで、僕の口が抑えられた。インの手だ。


柔らかくて、甘ったるい飴の匂い。少しべたついた指の先が、僕の頬に跡を残す。


ずっとイチゴ飴を口の中で味わってたらしいインは、急いだ様子で飲み込んで、僕の代わりに喋りだした。


「で、でっかい流氷ができるくらい、寒かったわ。足元もツルツルに凍ってたから、しばらく近づかない方がいいと思う」


「そうだったか!いやぁ、怪我なくてよかった。俺も母ちゃんも歳だし、雪降ってる間は行くのやめとくかなぁ」


「あんた、空の大穴なんて教えたのかい?教えるならせめて、その近くの海温泉にでも連れてけば良かったのに」


「馬鹿いえ!こんな寒い中露天風呂入る奴がどこにいんだよ」


そう言い切ると、おじさんは再び奥へ戻ってリンゴに飴をまとわせる。


振り返ると、軽い列ができていた。


おばさんは、インの手にもう一本のリンゴ飴とイチゴ飴を握らせて


「危ない思いさせて悪かったね。こんな天気だけど、祭りは楽しんできなよ」


少し早口にいうと、次のお客さんを呼び込みはじめた。


ナフ達の列も徐々に短くなってきたみたいで、夜の広場はさっきよりも賑わってる。


食事券を貰う前にいっぱい買うのもシャクだし、そろそろみんなの方に向かおうかな。


いや、でも、それにしても…


「危なかったぁ。良い、ヒアン。空の大穴に龍がいるなんて言ったら、パニックになっちゃうでしょ。だから絶対、私達だけの秘密よ。分かった?」


「…うん」


インが、右手のリンゴ飴を僕に渡す。


「なら良し。けど、口を滑らせかけた罰として、このイチゴ飴は私が貰います。ナフにも買ってあげようかなぁ」


「…うん」


奇妙な間が空いて、僕の手にイチゴ飴が押しつけられた。


「…うそよ。ほら、ヒアンの分のイチゴ飴渡すから」


「…うん」


「…どうかしたの?上の空で」


だって、だって、


「…僕の初キスが、インの手のひらに奪われた」


そういうと、インは豆鉄砲を喰らったような顔で自分の手のひらを見つめて、


「……手洗お」


服で拭うとそう呟いた。

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