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『お互いの友達』

 八月に入ったばかりの一年で一番熱い太陽の下を、私は美咲ちゃんと駅へ向かって歩いている。いよいよ遊園地へ遊びに行く日が来たというのに、沈んだ声の私と少し慌てた様子の美咲ちゃん。なんでこんなにどんよりとした雰囲気なのかって、それは夏休みに入ってから翔平さんと私の間に起きた出来事を話していたから。カフェで再会したところまでは有頂天だったのに、あっという間に奈落の底です。


 あ、でも正確に言えば、翔平さんと私の間には悲しいかな、何も起きていないんだよね。変化があったのは私の心の中の問題。勝手に舞い上がって勝手に落ち込んでるんだから、情けないことこの上なし。それでも美咲ちゃんは優しいのだ。


「とにかく今日は、王子様のことは忘れて楽しもう! ねっ?」


 ほらね、必死で慰めてくれる。一生懸命な美咲ちゃんを見ていると、落ち込んでしまっていることが申し訳なくなってきた。美咲ちゃんは今日をすごく楽しみにしていたはずなのだ。私のせいで台無しにする訳にはいかない!


「美咲ちゃん、もう大丈夫! 遊園地、楽しもう!」


 そうだよ。今日は翔平さんのことは忘れて、美咲ちゃんの恋を応援しなくちゃ。


「その意気だよ、ゆらら!」


 美咲ちゃんはほっとしたように笑った。私も笑ってみせる。空を見上げると、あまりにきれいな青空が広がっていて、ちょっぴり切なくなった。


 駅前にはすでに晃一がいた。そして晃一の隣には初めて見る男の子。翔平さんのことですっかり頭から抜けていたけど、そういえば美咲ちゃんが『お互いの友達を誘う』とか言ってたもんね。


 私とほとんど変わらない背に、クリっとした丸い目をしたその『友達』は、晃一が連れてくるタイプとは思えないほど可愛らしい。美咲ちゃんには晃一と行動してもらわなきゃいけないから、必然的に私はこの男の子と過ごすことになる訳で……。優しそうな子で良かった、と一安心。


 それにしても、おとなしく待っている晃一なんて、なんだか面白い。だって晃一らしくないんだもん。


 小さな笑いをかみ殺している私の隣で、薄っすらと頬を赤らめている美咲ちゃんは晃一目掛けて駆けて行った。


「待たせちゃってごめんね」


 いつになくしおらしい美咲ちゃんの言葉に、晃一とその友達が首を横に振っているのが見える。少し遅れて美咲ちゃんに追いついた私は、そんな男子二人に「おはよう」と挨拶をした。


「おっせーぞ」


 いきなり吐かれる暴言は、もちろん晃一のものだ。美咲ちゃんと一緒に来ましたけど!? という反論をしたいところだったけど、晃一の隣の男の子が「今日はよろしくね」とまるで子犬のようにキラキラとした目で言うものだから、私はすっかり毒気を抜かれてしまった。


「あ、こいつ、三組の桜庭和也な。知ってるかもしれないけど」


 晃一の紹介に、美咲ちゃんは「知ってるよー」とご機嫌だけど、ごめんね、私は初めて知りました。


「城戸ゆららです」


 とりあえず私も名乗っておく。


「うん、知ってる」


 満面の笑みの桜庭くん。


 え? 私を知ってるの?


 桜庭くんの言葉に驚いたけど、それを尋ねる暇はなかった。だって三人はすでに駅のホームに向かって歩き出している。置いて行かれては堪らないと、三人の背中を慌てて追いかけた。

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