心の構造
「ノートとペンと、辞書……?」
どこか納得が行かない様子の美咲ちゃんの声。
そうだよね。普通の家族なら、わざわざ先生を通さなくても、直接渡せば済む話だ。
でも、私たち家族にとっては違う。
本来なら必要のないもの。それを手に入れることさえ、きっと大変だったはずで、そして、先生を通して届けてくれたのも、嘘偽りなく本気で進学を認めてくれたことの証明なんだと思う。
手に力が入る私を見て、桜庭くんが慌てて自分の封筒を開けた。
「同じのが、入ってる」
ポツリとつぶやいた桜庭くんの声が湿っぽくなっていることに気づけたのは、たぶん私だけだろうな。
「僕がゆららちゃんと同じものをもらえるなんて……」
一音一音を噛みしめるように発した桜庭くんにとって、お兄ちゃんたちが、そして私の一家がどれだけ大きい存在かっていうことは、今さら聞くまでもない。いつだって桜庭くんの行動は私たち家族の従者としてのものだった。
だから、その一家の一員である私と同じ扱いを受けたことに、胸を震わせているんだろうな、ってこれも簡単に想像がつく。
でも、感動しているのは私も同じ。
『目指すものがあるのなら、きちんと頑張りなさい。その後のことは、またゆっくり話し合いましょう』
お母さんのそんな心の声が聞こえてきたんだから、親心にウルッときちゃうのは自然なことだよね。
「よーし。模試、頑張っちゃうもんね!」
涙目になりながら拳を挙げる私の肩を、美咲ちゃんがポンと叩いた。
「なんだかよく分からないけど、やる気が出たのなら何より。朝のうちに寄れって言ったまこっち、正解だったね」
本当にそうだ。今回もまた、澤部先生の機転に背中を押されている。
そして受験勉強なんて楽勝のはずの桜庭くんにとっても、大切な出来事になっているはずだ。
「それにしても、澤部先生はうちの親に会ったのかな?」
素朴な疑問。
さすがの桜庭くんも「うーん」と歯切れの悪そうな声を出した隣で、美咲ちゃんはあっけらかんとしていた。
「直接会ったかどうかなんて、どっちでもいいんだよ。大事なのは二人がその贈り物を喜んでるってことじゃない?」
ニコリと笑う美咲ちゃんの顔を数秒見つめて、いろんなことがストンと飲み込めた気がした。
私はたぶん、自分が美咲ちゃんたちと違うってことにこだわりすぎて、肝心なことを見ていなかったんだ。
「ありがとう、美咲ちゃん」
人間もドラキュラも、心の構造はきっと同じ。
そのことでどうしようもなく嬉しくなったっていいよね。