幸運な日
体を動かしたせいなのか、気分は上々、ご機嫌な私。……って、あれ? 私、ほとんど動いてないのになんでだろう?
思い当たるのは翔平さんへの想いが強くなったこと、そしてその想いを告げたこと。
どうやら私の心は舞い上がっているみたい。この勢いで、晃一の秘密を聞き出しちゃえ!
「翔平さん。晃一の恥ずかしい過去って、何があったんですか?」
翔平さんは少しキョトンとしてから、「ああ」と言って笑顔を見せた。
「あいつさ、小学生の頃怖がりで泣き虫だったんだよ。クラブで肝試しした時、あんまり大声で泣くから近所の人が心配して飛んできて、結局その年の肝試しが中止になったくらい」
横から見る翔平さんの顔には、バカにした雰囲気なんて微塵もなくて、ただ懐かしさと愛おしさが溢れている。
「でもその翌年、晃一は泣かなかった。目に涙をいっぱい浮かべて、でも絶対引き返さなかった。あいつの意地っ張りだけど頑張り屋なところ、俺、好きなんだよね」
やっぱり晃一の話をするときは、普段より少し男の子っぽい話し方になる。晃一がいなくても、私の前でそういう翔平さんを曝け出してくれていることが、すごく嬉しい。
「でもこの話、晃一の彼女には内緒でお願いします」
真顔でお願いする翔平さんに、「もちろんです!」と力を込めて返事をした。
「城戸さんなら、大丈夫だって思ってるけど」
そんなふうにあっさりと信用されるのは、もちろん悪い気はしないけどなんだか照れくさい。
「それにしても、翔平さんがあんまりバスケットが上手で驚いちゃいました」
慌てて話題を変える。でも、言ったことは本心だ。
小学生の時に晃一と一緒にバスケットをやっていたことは聞いていたけど、まさかこんなにかっこいい姿を見れるとは。
「そんなことないよ。大学のサークルでも、俺より上手い人なんていくらでもいるからね。だけど、ありがとう。素直に、嬉しい」
あー、笑顔が眩しい!
それに、サークルの新情報までゲットできるなんて、もしかして今日の占い一位だったりする?
それにしても、今もバスケットを続けているということは、翔平さんにとってバスケットは特別なんだろうな。と思う。たぶん、前に聞いたおじいさんの話と同じくらい。
そんな大切な場所……。
「どうして、バスケットコートに連れてきてくれたんですか?」
他意はないのかもしれない。だけど油断したら期待してしまいそうになるから、敢えて問いかけた。
だけど本当のところは、その期待を握りつぶしてほしいのか、そっと育ててほしいのか……。私は翔平さんから、どんな言葉を聞きたいんだろう。
「俺もね、受験勉強で思うように捗らないときがあって、そういう時はバスケやりに行ったんだ。だからもし、城戸さんが勉強しなきゃって思い詰めてるなら、俺みたいのもいるんだよ、って教えたかったのかも」
翔平さんが「あはは」と笑うと、風が優しく吹いた。
「大丈夫だよ、城戸さん。城戸さんは頑張ってる。俺はちゃんと見てるから。晃一たちみたいに、時々息抜きしたって、バチは当たらない」
私が自分を責めたこと、気付いてくれていたんだ。
そう思うと、甘くも切なくも胸が痛んだ。
「ありがとうございます。でも、翔平さんがせっかく時間を作ってくれているのに集中できないなんて、翔平さんに申し訳なくて。これまで勉強を頑張れたのも、全部翔平さんのおかげなのに」
しょんぼりしかけた私の頭に、温かな体温を感じた。それは、翔平さんの大きな掌。
「そんなことないよ。俺は自分の好きで勉強に付き合ってるんだし、勉強だけじゃなくて息抜きだって付き合いたいと思ってるよ?」
遠慮がちに頭を撫でられて、私の頬が熱くなる。
やっぱり今日はラッキーデーだ。
そして過去最高に、翔平さんに近づけた気がした。