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8、魔王の真意

 ひとまず俺たちは近くの町を目指すことにした。


 町へと続く道は途中で林の中を通る。

 おそらくモンスターもいるだろう。

 日が暮れる前には林を抜けたい。


 林が近づいてくるとトンがくんくんと臭いを嗅ぎだした。


「ぶひ。バカ賢者様」

「いいか、金輪際、バカ賢者と……」

「あの林、火コボルドの巣があるです」

「なに?」

「臭うです」

「なるほど」


 トンは鼻がきく。


「かなりいるか?」

「ぶひ」


 厄介だな。火コボルドは少量だが火を吐く。

 一匹あたりはどうということもないが、大群でやってこられると面倒だ。

 屋台が燃やされたら事だ。


 しかし、林に差し掛かった頃には日が傾いてしまっていた。

 林の中の道を急いで走る。


 すると、目の前で木が倒れた。

 道が塞がれる。

 

「……日暮れ前から襲ってくるなんて勤勉だな」


 倒れた木の向こうに数匹の火コボルドが現れた。

 そして、左右、背後にも。囲まれた。


「こいつら他にもわんさかいるんだろ?」

「ぶひ」

「だが、やるしかねえな」

「ちょっと待つです」


 言うとトンは飛び降りた。


「おい! 危ねえぞ!」


 そして、火コボルドに向かって駆けだす。


「おい!」


 俺は慌てて、御者席から降り、氷結魔法を使おうとした。

 が、火コボルドはトンを襲わず、何やら話し込んでいる。

 

 トンが戻ってきた。


「通してくれるです」

「は?」


 トンの言う通り、火コボルドは倒木を動かし、道を開けた。

 

「どうなってるんだ?」


 俺は疑問に思いつつも屋台を発車させる。


「なぜ、あいつら俺を襲わない?」


 コボルド族は頭こそ犬だが、知能がある。

 そして、知能を持つ魔物はたいていが魔王の配下として人間を襲う。

 コボルドも例外ではない、はずだ。


「まさか、お前と一緒だからか?」

「それもあるですが、バカ賢者様が悪い人間でないと話したです」

「そんなことで見逃した?」

「コボルドもオークも人間を襲いたいわけではないです」

「……?」

「人間が襲ってくるから戦うです」


 立場が違うだけか…しかし。


「たいていの魔物は魔王の命令で動いてるだろ」

「ぶう、魔王様はトンたちに力をくれるだけです」

「命令はしてないと?」

「ぶひ。魔王様はトンたちが人間と戦えるように世界中に魔力をまいてくれてるです」


 魔王は魔物に加護を与えているだけ。

 魔物が人間を襲うのは、人間が魔物を殺したり、領域を荒らしたりするから。

 それが本当なら……。


「魔王様は怖いけど優しい方です」

「……お前、会ったことあるのか?」

「一回だけ」


 そういえば、魔王は最後に何か言おうとしていた。

 何も聞かず、とどめを刺したが。


 俺が魔王を殺したことで、魔物の力が弱まり、結果、トンの一族は全滅した。


「……トン、実は魔王を殺したのは……」


 言えなかった。


「なんです? バカ賢者様」

「だから、お前、バカ賢者っていうのはな……」

「なんです?」

「……いいや、バカ賢者で」


 屋台は林を抜けた。



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