34、薬師ケリン
ケリンは驚いた顔で俺に近づいてきた。
「まさかと思ったけど、やっぱりソーヤさんだ」
「久しぶり……だな」
けっこう気まずい。
薬師のケリンとは魔王のいたバルゼリア大陸に渡る直前、この港町で出会った。
パーティーに誘ったのはセリア。
回復役は多い方が良いということだった。
当然、俺は反対した。
回復など俺一人で足りるからだ。
だから、ケリンからすると俺は感じが悪く映っただろう。
「そういえば……ケリンの家はこの町だったな」
なんとか間を埋めようと柄にもなく話題を振る。
「ええ。セリアさんたちは、まだ一緒に旅を続けようと言ってくれたんですが、一旦、区切りつけようと思って」
「そうか」
「あの……それより……」
「……なんだ?」
ケリンの目はトンに向けられていた。
「ああ。オークのガキだ」
「オーク!?」
ケリンの顔に緊張が走る。
彼女もオークと戦っているから当然だろう。
「トンです!」
トンがケリンにハグしようとして、俺の膝から落ちた。
ケリンは襲われたと思ったのか、後ずさりする。
「むぎゅ!」
俺はトンの襟をつかみ、ひっぱり上げた。
「気を付けろ」
「ぶひ、ごめんなさいです……」
俺たちのやりとりを見て、ケリンが固まっている。
「どういうことですか?」
「こいつは無害だ」
「……そうなんですか」
「トンです!」
トンは懲りずに、またケリンにハグしようとする。
今度はケリンがトンを受け止めた。
「オークの子ってかわいいんですね」
「かわいいかどうか知らんが、こいつだけじゃ生きていけないからな」
「……そうですか。これは?」
今度は屋台の荷台を見ている。
「屋台だ」
「屋台?」
「まあ、のんびり帰郷ってとこだよ」
「……はあ」
再会してからケリンはずっと怪訝な顔をしたままだ。
そんなにおかしいだろうか。
「ソーヤさん、なんだか変わりましたね」
「変わった? 俺が?」
「はい。前はとにかく嫌味なクソヤローでしたけど」
ケリンは時々、びっくりするような汚い言葉が混じる。
見てくれは清楚なんだが、どういう育ちなんだ。
「今でもクソヤローだと思うが」
「バカ賢者様はクソヤローじゃないです。バカです」
「うるせえ!」
「ふふふ。なるほど」
ケリンが笑いだした。
「なんだよ?」
「ソーヤさんが変わったのは、きっとトンちゃんのおかげね」
「トンの?」
「トンのです?」
俺たちの声が合ったことで、またケリンが笑った。
「……ソーヤさん、先を急いでるんですか?」
「いや、しばらく賢者は休業中だ」
「なら、私の工房に来ませんか?」
「お前の工房……いいのか?」
「え?」
「あんなことがあったし、お前、前から俺のこと嫌いだろ?」
「知ってたんですか?」
「……いや、今知った」
ケリンがまた笑う。
こんなに笑う女だったのか。
「今のソーヤさんは嫌いじゃありません」
「……」
「それに……話したいことがあるので」
「……話したいこと?」
「セリアさんのことです」