32、トンとドルート
「おもかじいっぱいです〜!」
ご機嫌なトンがドルートの上で号令をまねる。
さっきからドルートに肩車しっぱなしだ。
トンが見つかった時、こんな展開になるとは予想していなかった。
◆
船倉にいたトンが捕まったのは一刻前。
「ぶひぃぃ!」
「船長! 捕まえやした!」
「賢者、てめえ、オークを乗せてやがったな……」
ドルートが俺を睨んだ。
「トン! おい、そいつを放せ!」
「俺の船に黙って乗せるとは良い度胸じゃねえか」
ドルートが俺に詰め寄る。
「落ち着け! このオークは船に危害を加えない!」
「危害を加えねえ? てめえ、自分のしたこと分かってんのか?」
「……」
「すでに損害が出てるんだよ!」
「……トンが何をしたって言うんだ」
「こいつじゃねえ、てめえだ!」
「俺が……?」
「無賃乗船だろうが!」
無賃乗船?
「オレの船で密航させようとはな!」
「待て! 金の問題なのか……?」
「このオークの分、払ってねえだろ!」
「金の問題……だけ?」
「他に何がある!」
いまいち理解できない。
「オークが乗ることは良いのか?」
「オークだろうが、人間だろうが、密航は許さん!」
「いやいや、オークだぞ……?」
「だから何だ!?」
「……いや、何でもない。金は払う」
「当たり前だ! 罰金として、乗船料の3倍もらうぞ!」
なんだか分からないまま、ぼったくられた。
が、俺はものすごく安堵した。
「トン……お外に出ても良いです?」
金を払うとトンは解放された。
「人間がいるです……良いです?」
トンも状況がつかめていないようだ。
「金はもらった。好きに過ごせ」
ドルートの物言いはぶっきらぼうだった。
が、トンには、これ以上ない嬉しい言葉だったらしい。
「ありがとうです!」
トンはドルートにハグをする。
「……オークのガキは初めて見たが、皆こんなもんなのか?」
ドルートが柄にも無く戸惑う。
「さあ。俺もトンしか知らないからな」
「トンか。海を覗くなよ。揺れたら落ちるかもしれん」
「ぶひ! 周りが全部海です!」
トンが甲板を走り回る。
「船長……オークですぜ……」
バルゼリア出身の乗員はやはりトンを忌み嫌った。
「うるせえ! 金は払ってるんだ! 客として接しろ!」
「だけど……」
「それに今までじっと大人しくしてたんだ。狂暴ではないだろ」
結局、ドルートの一喝で乗員たちもトンを受け入れた。
◆
それからトンは、なぜかドルートになついた。
ドルートもいつの間にかトンを肩車している。
「船長、あれは何です?」
「クジラが跳ねてるんだ」
「ぶひ! クジラ! クジラって何です?」
「はっはっは。お前、クジラも知らねえのか?」
「ぶひ」
なんだ、このコンビは……。




