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28、海の悪魔襲来

 三人組をお仕置きし、海の様子を見た後、俺は船倉に戻った。

 そろそろ昼飯だ。


「バカ賢者様!」


 俺だと分かり、トンが屋台の窓から顔を出す。


「昼飯だ。屋台で少し調理するぞ」

「バカ賢者様! 聞こえないです!」

「昼飯だ!」

「違うです! 聞こえないです!」

「……何が?」

「ネズミの音が聞こえないです!」

「……」


 トンの言う通り天井裏や床裏を走っていたネズミの足音が止んでいる。


「さっきからずっとです!」

「……」

「ネズミが皆いなくなったです!」

「……?」


 ネズミがいなくなる。

 それは船乗りにとって凶兆だ。


「この船に何か起こるってのか?」

「ぶひ!?」


 それから何事もなく数日が経った。

 ネズミが逃げ出した理由は分からないままだった。


 しかし、甲板で食事をしていた、ある夜。

 それは突然起こった。


 ドゴォォン!


 岩に衝突したかのような轟音。

 船が大きく傾き、俺も水夫も甲板を転がった。


「座礁か!?」


 床に這いつくばっているドルートに聞く。


「いや! 衝撃は横から来やがった!」


 まだ揺れ続ける甲板でドルートが立ち上がり、水夫に怒鳴る。


「海賊が体当たりでもしてきたか!?」

「何も見えねえです!」


 衝撃のあった方の海を見ている水夫が首を振った。


 座礁でも船でもない。

 では……。

 

「せ、船長!」


 水夫に呼ばれ、ドルートが海を見下ろした。


「こいつか……!」


 俺もドルートの隣で身を乗り出す。


 夜の海面に巨大な影が動いている。


「まずいぞ……こいつは……」


 巨大な影が動き、海中からおぞましい姿を現した。


「クラーケンだ!」


 それは船よりも巨大なイカだった。

 太い足を甲板にからめてくる。


「斧で叩っ切れ!」


 ドルートの号令で水夫たちが一斉にクラーケンの足に飛び掛かる。

 俺も魔法詠唱のため身構えた。

 が、嫌な予感が走った。


 衝撃が来たのは船倉の方からじゃなかったか?


 俺は慌てて船倉の扉を開けた。

 足元に水があふれた。


 穴が空いた……!


「トン!」

「バカ賢者様!」


 まず目に入ったのはトン。

 屋台の屋根にのぼり、震えていた。

 そして、次に見えたのは……。


 突然、目の前が真っ暗になり、意識が遠のく。


「バカ賢者様!」


 トンの声で我に返る。

 船倉の床で仰向けに倒れていた。

 その俺の上で巨大なイカの足が暴れている。


「賢者! 無事か!」


 ドルートと水夫が船倉に入ってくる。

 トンが見つかることを気にしている場合ではなかった。


 待ち構えていたようにクラーケンの足が水夫を捕まえた。


「うわぁぁっ! 助けてくれ!」


 ドルートが斧で切りかかるが、ダメージを与えられない。


 炎焼魔法!

 火球をぶつける。


 クラーケンは水夫を放し、船倉から足を撤退させた。

 クラーケンの足が抜けたことで穴から大量の水が流れ込む。

 

 氷結魔法。

 ピンポイントを狙っている時間はない。

 俺は船倉の壁と床、全てを凍らせた。


 海水の流入は止まった。


「行った……のか」


 ドルートは甲板に戻った。

 俺も続く。


 海から巨大な影は消えていた。

 


「旦那がいなかったら沈んでましたよ!」


 翌朝。

 クラーケンに捕まった水夫が自分の武勇伝のように話している。

 どうやらトンのことは目に入っていなかったらしい。


 クラーケンを乗り越えたことで水夫と乗客に一体感が生まれていた。


「いやあ……さすが魔王と私を倒し賢者!」


 メコダもその中に加わっている。

 グラとヌーラは腰が抜けて、まだ寝込んでいるそうだ。


「なんとかやり過ごしたな……」


 言葉に反し、ドルートの顔は険しい。


 まだ俺とドルートしか知らない。

 パニックを起こさないためだ。


 クラーケンの脅威は去っていない。


 そして……。


「水はどの位もつ?」

「1日だな」


 船倉に穴が空いたことで、酒樽と食糧が全て流されていた。




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