27、意味のない決闘
甲板で水夫たちともめているのは三人組の乗客だった。
「出航までさんざん待ったんだからサービスしろよ!」
どうやら客が何かゴネているらしい。
「だから、もう少し待てと言ってるだろ!」
水夫も譲らない。
「さっきから酒を出せってゴネてるんだ」
ドルートが他人事のように言う。
「船長が止めなくていいのかよ」
「オレの仕事じゃない」
「あ?」
「あいつらは酒をねだってるんだ」
「……」
「お前の仕事だろ、料理長?」
押し付けやがった!
俺に!
「ほら、早く行ってこい。料理長」
「厭味ったらしく、料理長って言うな!」
俺はしぶしぶ面倒な三人組に近づいた。
「旦那! 何とか言ってやってくだせえ!」
今にもキレそうになっている水夫が俺に怒鳴る。
「誰だ、この若造は!? 上の人間呼んで来い!」
三人組の一人が吠える。
俺は笑顔を作ってみた。
「私が料理長です。お酒は食事間でお待ちください」
一応、相手は客だからな。
こんな感じが適切だろう。
「料理長だと!?」
「この船は、こんなガキが料理長なのか!」
「んだと!? 誰がガキだ、誰が!? 海に沈めんぞ!」
我ながらキレるのが早かった。
相手もヒートアップする。
「やってもらおうじゃねえか!」
男の一人が剣を抜いた。
戦士か剣士らしい。
「バカだな。この人は魔王を倒した賢者だぞ」
「泣いて謝れ」
水夫たちが笑う。
すると、それまで黙っていた男の目つきが変わった。
「魔王を倒した賢者? それはいい……」
男が剣を抜く。
なかなか高そうな剣だ。
「バルゼリアの旅が不毛に終わり、面白いことを探していたところだ」
男が不敵に笑う。
「なんだ、お前は?」
「私は剣士メコダ。こちらのグラとヌーラと共に名誉のため旅をしている」
「名誉だと?」
「誰も見つけたことの無い宝を求めて!」
グラが大げさに剣を振った。
「バルゼリアには宝らしい宝が無かったけどな」
ヌーラが不機嫌そうに言った。
「単なる山師じゃねえか!」
俺の突っ込みにもメコダたちは全く動じない。
言われ慣れているのだろう。
「だが、最後に幸運がやってきた。魔王を倒し賢者よ」
「芝居がかった野郎だな……」
「この剣士メコダと勝負せよ!」
「グラもだ!」
「ヌーラとも!」
カレームを思い出すな。
俺に勝負を挑んでくる奴はどうしてこうも鬱陶しいんだ。
「メコダ、一つ教えてくれ。グラでもヌーラでもいい」
「なんだ?」
「なんだ?」
「なんだ?」
「仮に俺に勝ったとして、それが何になるんだ?」
「名誉だ!」
「金にもなる!」
「いい宣伝にもなるしな」
名誉、金、宣伝……そんなところか。
「分かった」
「よろしい。だが、魔王を倒し賢者よ。私の力を侮らない方が……」
俺は聞く耳持たず、大気魔法で三人組に真空の風を吹かせた。
ヌーラ、グラ、メコダの剣が宙を舞う。
そのまま海の中へと消えていった。
「……侮らない方が……いいぞ」
メコダは剣が消えた右手を凝視する。
「……ああああ!?」
三人組は甲板の隅に走り寄り、海を見下ろした。
「おい! あの剣高かったんだぞ!」
「私はただの剣士ではない魔法剣士だ! その魔法も見ぬ前に何をする!」
知るか。
「また騒いだら海の底で剣を探すことになるぞ」
「……」
「わかったか!?」
「はい!」
「はい!」
「もちろんです!」
水夫たちが手を叩いて笑っている。
以来、三人組はすっかり大人しくなった。
が、この時、船倉ではトンがある異変に気付いていたのだった。