25、勇者セリアの違和感
テストを終えた俺は船会社を出て、屋台へ戻った。
今のうちにトンを乗せて船倉に入れておこうか。
思案していると、背後からダミ声が聞こえた。
「お前が屋台とはな。どういう風の吹き回しだ」
ドルートが酒を片手に出てきた。
トルテも一緒だ。
「ただの気まぐれさ」
「気まぐれにしては上出来だな」
「ドルートさん気に入っちゃって〜、何枚も食べてましたよ〜」
「余計なことを言うな!」
ドルートに怒鳴られたトルテが舌を出す。
「それにしても……」
ドルートが頭をかきながら怪訝な顔する。
「勇者様といい、賢者様といい、魔王を倒すと皆、人が変わるのかね」
……何?
「……セリアがどうしたんだ?」
「……」
ドルートは俺の目をじっと見た。
「……別にぃ」
「……このジジイ!」
殴りかかろうとする俺をトルテが止める。
「ふん、何がどうってことではないわい。ただ……」
「……ただ?」
「最初に会った時とは、どこか様子が変わっていた」
「そういえば〜、私もそんな感じはしましたね〜」
トルテもうなずいた。
「うまく説明はできんがな」
セリアの様子が前と違う?
バルゼリア城で抱いた違和感を思い出す。
最後に見たセリアは俺の知る彼女とは雰囲気が違った。
その原因は俺だと思っていたが……。
ドルートやトルテも感じたということは……。
「話したわけではないから気のせいかもしれん」
そう言って、ドルートは家に帰っていった。
◆
翌朝。
宿からトンを屋台に移し、定期船に向かった。
屋台を船倉に入れるのは一苦労だった。
船倉には食糧が保管されている。
その隅に屋台を停めた。
「バカ賢者様……トン、ドキドキするです」
「海に出たら揺れるだろうが、飛び出してくるなよ」
「……がんばるです」
料理長になったのは好都合だったかもしれない。
食糧が保管されている船倉に入り浸っても怪しまれないだろう。
船倉から甲板に出る。
大歓声。
一瞬、何が起こったか分からなかった。
「賢者様! お気をつけて!」
「船をありがとうございます!」
船大工や港の人々が見送りに来ていた。
「賢者様〜、結婚したくなったら〜、いつでも来てね〜」
トルテも手を振っている。
これまで勇者一行として見送られたことはあったが。
俺一人が見送られたのは初めてだ。
しかも、こんな盛大に。
「結婚相手は別の誰かを見つけろ」
「もう〜、つれない〜」
トルテをからかっていると、ドルートが舵を握った。
「船を出すぞ!」
「うぉぉぉぉ!」
ドルートの大声に水夫たちが雄たけびを上げる。
「出航だ〜!」
「帆を張れ〜!
「ぼやほやするな!」
荒々しい水夫たちのやり取りを聞きながら沖を見た。
いよいよ大陸を渡る。