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24、サメのテスト

 料理長の代わりとして船に乗る。

 そのためにドルートのテストをクリアしなければならない。


「テストって何するんだよ?」

「そうだな……航海中、船の上で食う美味いものを作ってみろ」

「航海中の船上で……」


 帆船での航海は常に食糧不足との戦いだ。

 野菜や生肉は腐るため、塩漬け肉などの保存食がメインになる。

 

 だから「料理長」なんて名がついていても、やることは料理じゃない。

 盗み食いする奴を追い払うといった食糧管理が主な仕事だ。


 なのに、ドルートがあえて料理のテストをするのは……。

 俺の値踏みだ。

 ……上等じゃねえか。

 

「なら……保存食になるな。サメか」


 船乗りの保存食といえばサメが定番だ。

 発酵させることでサメの体内にあるアンモニアが腐敗を防ぐ。

 そのため塩漬け肉より日持ちがする。


「サメの保存食なら、ここでも作れるだろう」


 と、提案する。

 まあ妥当な線だろう。


「サメの保存食はダメだ。あんな臭えもん、上品な俺には合わねえ」

「……アンモニア臭え奴がよく言うぜ!」


 ダメか。

 確かに、サメの保存食はアンモニア臭がきつい。


「じゃあ、釣ってすぐ料理するパターンだな。この辺は何が釣れる?」

「サメだな」

「結局、サメなんじゃねえか!」


 サメは新鮮でもアンモニア臭がする。

 上品とうそぶくジジイを納得させるには……。

 俺は「無限図書館」を検索した。



「旦那! 持って来やした! 釣れたてです」


 水夫にサメを持ってきてもらった。

 ドルートがおちょくるように見る。


「だからサメは臭えって言っただろ」

「サメしかねえんだろが!」


 俺は怒鳴りながら、ナイフでサメをさばく。

 バルゼリアの海で獲れるのは、中型のウサギザメだ。


「賢者様よ、サメは発酵させなくても臭えぞ」

「ああ。ウサギザメは特にな」


 俺はサメの腹部に手を突っ込み、掴んだものを引き抜いた。


「だから、これを食う」

「おい! そりゃあ……?」

「そう、心臓だ」

「……サメの心臓を食うってのか?」


 俺は心臓だけを切り取り、半分に切った。


「こうして血を抜く。抜きすぎると旨味も逃げるからほどほどに」


 血抜きが済んだら、スライスしていく。


「これだけだ」

「火も通さねえのか?」

「ああ。生がいいんだ」


 俺はサメの心臓の生スライスを一切れ皿にとり、ドルートに渡した。


「酢やかんきつ類の果汁をかけて食う」


 ドルートは言われた通りに果汁を絞り、かけた。


「これ……発酵させた方がまだマシじゃねえのかよ」

「いいから食ってみろ」


 ドルートは覚悟を決めて、口に入れた。


「……臭みがない」

「だろ。心臓はアンモニア臭がないんだ」

「美味いな……」

「魚を生で食う東の民族が見つけた食い方だ」


 俺自身、そんな民族聞いたことないが……。

 バルゼリア王の料理書にはいつも驚かされる。

 どんな奴が編纂したのだろう。


「私も食べたい!」


 トルテがスライスを口に入れる。


「う〜ん! おいしい!」


「船長! オラも食っていいですかい?」


 ドルートとトルテの反応を見て、水夫たちもサメの心臓に手を伸ばす。


「うまい!」

「鳥や豚より臭くねえぞ!」

「海に出たら、サメを釣りまくろうぜ!」


 ドルートは水夫たちの笑顔を満足気に見ている。


「出航は明日の早朝だ。遅れたら置いていくぞ」

「素直に合格と言えよ」



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