22、船のアップグレード
「すげえ……」
ピネーの丘に来た船大工たちは目を丸くした。
が、すぐに伐採に取り掛かった。
「まさか、親方の木で船を作れるなんて!」
「今までで最高の仕事をしてやるぞ!」
船大工たちの熱意を見ると、トルテの父の人柄が分かる。
「賢者の旦那! 持っていく木はこれくらいで良いか?」
「いや、もう1本頼む」
「なんでだ? これだけありゃあ、マストも帆けたも作れるぞ」
「ああ。試してみたいことがあるんだ」
「ほえ?」
船大工たちは不思議そうな顔をしつつも文句を言わず、運んでくれた。
船の修理が始まるとなり、港は賑わっていた。
「賢者の旦那! 試したいことってなんだ?」
船大工の棟梁が運び込まれたピネーの木を叩きながら聞く。
「マストの構造を変えたい」
「構造も何も……これだけ立派なピネーがありゃあ、立てるだけで良かろうよ」
「いや、それだと、また嵐が来て折れたら終わりだ」
「そりゃ、そうだが……何をするんで?」
俺は地面に簡単な設計図を描いた。
「巨木一本を立てるんじゃなく、裁断した複数の木材を寄せ合わせる」
「……ほう。何本もの寄木で1本のマストにするということか」
さすが熟練の船大工たち。
理解が早い。
「これならどこかに亀裂が入っても他が支えるから折れないな!」
「それ以前に補強し合うし、柔軟性も出るから亀裂も入りにくい!」
「旦那! よく思いついたな!」
「いや、俺のアイデアじゃないよ」
最先端の造船技術を誇る海軍国家ムーレンド。
その王立図書館で頭に入れた情報だ。
「いずれ、このやり方がスタンダードになるだろう」
「へへ! こりゃあ、腕がなるぜ!」
船大工たちは新しいマストの建造に取り掛かった。
2日後、全ての修理が終わった。
その間、俺とトンは港近くの宿屋で寝泊まりした。
もちろん、トンのことは内緒で。
「賢者様〜! おかげで会社がつぶれずにすんだよ〜」
まとわりつくトルテをいなすのも慣れた。
「出航はいつだ?」
「いつでも〜! お客さんも待ってるし〜」
「よし、できるだけ早く出航準備をしてくれ」
「あの〜、そのことなんだけど〜」
トルテが苦笑いする。
「なんだ? まだ問題があるのか?」
「ううん、船はバッチリなんだけど〜、その〜……」
「トルテ! なんだ、あの船は!」
入り口からドカドカと男が入ってきた。
聞き覚えのある嫌なダミ声。
「……ん? てめえは……」
男は俺を見るなり、こめかみに青筋を立てる。
「生意気な賢者じゃねえか! 生きてやがったか!」
「あん? そっちこそ、いつ死ぬんだよ、クソジジイ」
にらみ合い。
男は、定期船の船長ドルート。
この大陸に来た時の船で舵を取っていた。
「トルテ、まさか次の出航はこいつが船長じゃねえだろうな」
「それが〜、今、船長は2人だけで〜交代制なので〜ドルートさんです〜」
「変えろ! こいつが船長の船なんて乗れるか!」
「気が合うな! ワシもお前など乗せる気はない! 」
「なんだと……」
「泳いで渡るか、バルゼリア城にでも帰るんだな!」
「……」
このジジイ、本気で俺を乗せない気だ。