18、悪化する治安
隣の大陸に渡るため俺たちは船会社に向かった。
定期船の運行スケジュールを確認するためだ。
港から一旦通りに戻る。
「おっと! 危ねえな!」
突如、路地から数人の男が飛び出してきた。
「びっくりして、大事な瓶を落としちまったぞ!」
「あ! 割れてるんじゃねえか?」
「なんてことしてくれんたんだ!」
「こりゃあ弁償してもらわねえと」
相変わらず物騒な町だ。
ここには、海の荒くれ者たちが集まっている。
その上、よその大陸から逃げてきた犯罪者も多い。
治安は最悪。
女や子供が一人で出歩くことができないほどだ。
「50バルだ。無けりゃ銀5枚でもいいぜ」
前に来た時より、悪どくなってるじゃねえか。
「おい! 返事くらいしろよ!」
「この妙な馬車、叩き壊すぞ」
面倒なゴロツキ共だ。
目立ちたくないが、仕方ない。
「……いつ、終わるんだ?」
「なにぃ?」
「その三文芝居はいつ終わるんだと聞いてるんだ」
「お〜、言うじゃねえか、兄ちゃん」
ゴロツキ共が詰め寄ってくる。
「今ので弁償代は身ぐるみ全部になったな」
「この町には衛兵もいねえからな。助けは来ねえぞ」
ゴロツキ達が腰から大刀を抜いた。
「うわ〜、それは怖い〜」
と、俺は三文芝居をマネしながら御者席から降りる。
そして、すぐさま横の路地に入った。
「バカが! 逃げられねえぞ!」
確かに路地の先は行き止まりだった。
でも、ここで十分だ。
「けっけっけ。ここで殺したら死体もなかなか見つからねえな」
ゴロツキ共が路地に入ってきた。
「好都合だ」
氷結魔法。
俺はゴロツキ共を氷漬けにする。
顔以外の全身が氷に包まれた。
「うわぁぁ!」
「なんだこれは!」
「1日は解けない。ゆっくり凍え死ね」
俺はゴロツキ共の横を通り抜ける。
「た、助けてください!」
「すみませんでした!」
「まさか、魔法使い様とは〜!」
「……魔法使いじゃねえよ」
ゴロツキ共は態度を豹変させ、命乞いを続ける。
「もうやらねえか?」
「はい! もう致しません!」
「嘘つけ。またやるだろ」
「……はい、すみません」
「少なくとも俺の前には姿を見せるな」
「はい! しばらく引きこもります!」
「今度、見かけたら、どうなるか分かるな」
「はい! カッチカチに凍らせてください!」
俺は凍ったゴロツキ共を転がし、上から火球を投げ捨てた。
氷が解け、ゴロツキ共が自由になる。
「熱っ! 熱っ!」
「さっさと消えろ」
「はい〜!」
逃げ足だけはたいしたもんだ。
俺は屋台に戻り、船会社に向かった。
定期船を運営している船会社は一軒。
バルゼリアとヨンデ、2つの大陸を結んでいる。
来た時も利用した。
会社の前に屋台を停める。
「絶対見つかるな。ここでバレたら終わりだからな」
「ぶひ」
受付に行くと、オーナーのトルテがいた。
オーナーと言ってもまだ若い。
先代が早死にしたので娘のトルテが急遽跡を継いだらしい。
「あれ? ソーヤ様?」
トルテは俺に気づくと受付を飛び出してきた。
「良かった〜! 生きてた〜!」
俺の腕にまとわりついたトルテが上目遣いで言った。
「勇者様とパーティーの皆さんにお会いしましたよ〜!」