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15、宿屋夫婦との別れ

 屋台が消えた。

 農夫たちに壊されたのか?


「賢者様!」


 背後から声。

 振り向くと、宿の裏から女将が顔を出していた。


「こっち! 早く!」


 迷っている時間はない。

 俺は女将のもとに走った。


「ひっ……本当にオークを……」


 女将はトンを見て青ざめる。


「すまない。騒ぎにしたくなくて黙っていた」

「ごめんなさいです」


 トンがペコリと頭を下げる。


「……これがオークなのかい?」」

「オークです!」


 トンが胸を張る。

 全く空気を読めていない。


「……町の南に行って! 旦那が屋台を持って行ってる」

「……いいのか? そんなことして」

「オークは嫌いだが、あんたが賢者様だってことは信じてるよ」

「助かる」

「ありがとうです!」


 トンが女将の腰辺りをハグする。

 女将は複雑そうな顔だ。


「どっちに行った?」


 農夫たちの声が近づいてきた。


「早く行きな!」


 俺はトンを抱え、南に向かった。



「人がいます!」


 臭いを察知したトンのささやきで足を止める。


 前方を農夫数人が歩いていた。

 会話から察するに武器を探しに戻っていたらしい。


「まずい、このまま行かれると、モヘイが見つかる」


 地面に手をつく。

 土魔法。


 手元から農夫たちに向かって、地面がえぐれていく。


「おわっ!」


 突如、足元に溝ができた農夫たちは態勢を崩した。

 膝まで溝にハマる。

 直後、土が溝を埋めていく。


「やばい! 動けねえ!」


 農夫たちが膝まで地面に埋まった。

 互いに互いを引き抜こうとするができない。


「悪いが、誰かに掘り出されるまで我慢してくれ」


 俺は悪戦苦闘する農夫たちを横目に先へ進んだ。



 町はずれの物陰でモヘイは待っていた。

 屋台も無事だ。


「モヘイ、悪いな」

「礼を言うのはこっちでさあ! 賢者様が来なかったら首を吊ってた」

「俺たちを助けて大丈夫なのか?」

「あいつらも頭に血が上ってるだけで。落ち着けば分かってくれる」

「ありがとうです」


 トンがモヘイにもハグをする。


「オークの子供かあ……初めて見たが、かわいいもんだなあ」

「こいつは無害だ。隠していたのは……」

「分かってます。だが、町のみんなの気持ちも分かってくだせえ」

「ああ……お、そうだ」


 俺は厨房から売上金の入った袋を出した。


「これを忘れちゃ、女将にも恨まれる」

「ありがとうごぜえました。また来てくださいと言えねえのがつらいが」

「ははっ、そうだな」


 俺は御者席に乗り込んだ。

 トンも膝に乗る。


「世話になった」

「どうぞ、ご無事で」


 静かに馬を走らせる。

 モヘイは見えなくなるまで見送っていた。


「怖かったけど、トウモロコシは美味しかったです」


 トンが呑気に笑う。

 さっきまで大泣きしていたことも忘れてるようだ。


「んなこと言ってる場合か。野宿できる場所を探さねえと」

「ぶひ! そろそろ晩ごはんです!」




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