13、屋台初オープン!
赤穂スープを街へ売りに行く。
その際、屋台を出してほしい。
それが女将の頼みだった。
翌朝。
俺は女将と最寄りの大きな街・ソーカーに向かった。
不安は部屋に残したトンだ。
赤穂スープを飲んだら上機嫌で大人しくしていると約束したが。
ソーカーはモヘイたちパッチの農夫が作物を売りに来る街。
バルゼリアの城下町ほどではないが、人が多い。
「この辺で良いよ、賢者様」
女将に言われ、街の大通りに屋台を停める。
カウンターを出し、開店準備をした。
「初開店か……」
思えば、この屋台で商売をするのは初めてだ。
俺は竈に火を入れ、ダシ汁を作り始めた。
「いらっしゃい! パッチでしか作れない奇跡のスープだよ!」
スープの完成を待たず、女将が威勢の良い声で客寄せする。
しかし、足を止める者はいない。
「うーん、反応がないねえ……」
「いつもはどうしてるんだ?」
「トウモロコシは商人がまとめて買ってくれるから」
街の人々に直接売るのは慣れていないらしい。
「まあ、スープができるまで少し待て」
「でも、畑のトウモロコシの半分をすり潰したんですよ」
「余っても保存しておけるだろ」
「売れ残ったら大変じゃないですか!」
生活がかかっているから女将も深刻だ。
「もうすぐできる」
俺はダシ汁にすり潰した実を入れた。
同時に芯も煮込む。
そこからは早かった。
匂いに釣られて、屋台の前に長い行列ができた。
女将も呼び込みをする暇なく、接客している。
俺も汗だくでスープを出し続けた。
「完売しました〜!」
くたくたになった女将が声を張り上げる。
用意したトウモロコシはあっという間に無くなった。
「余るなんて心配無用だったね」
女将がへとへとになりながらも嬉しそうにカウンターに座った。
「こんなことなら、もっと、すってくれば良かった」
「いやいや、今日の分だってモヘイと二人で徹夜したんだろ?」
「また、すぐ来ないと! なので賢者様〜?」
女将が悩ましい表情で俺を見る。
ずうずうしさに底がない。
「……ダメだ。明日には出立する」
「だよねえ……よし、こっちでなんとかするよ!」
「当たり前だろ!」
「でも、すごいねえ。この調子ならいつもよりずっと儲かる」
「作ろうと思って作れる料理じゃないからな」
「もっと早く賢者様に来てほしかったよ」
俺と女将は心地よい疲労と達成感と共に帰路についた。
パッチの町が見えた
「旦那もこれを見たら驚くだろうね!」
荷台の中から女将が売上金の袋をゆする音がする。
「……ん? 様子がおかしいな」
町に人の姿がない。
だいぶ暗くなってきたとはいえ、誰も歩いていないのは変だ。
「みんな、どこかに行ってんのかね……?」
女将が荷台から顔を出し、辺りを見回す。
「あれは……」
宿屋の周りに黒い人だかりができていた。
「うちに何の用だろう……」
宿の近くで屋台を停めた。
「あんたら、どうしたんだい?」
と、女将が荷台から降りた。
「ああ、お前……大変だ……」
入り口の前に立っていたモヘイが困り果てている。
「おい、そいつから離れろ!」
群衆の一人が女将に怒鳴った。
よく見れば、農夫たちの俺を見る目が変わっている。
「賢者様……おめえさん……オークを連れてるだか?」
恐れていたことが起こった。