12、美味い病気
「病気が美味い……? どういうことでさあ?」
モヘイが眉間にしわを寄せる。
「赤くなったトウモロコシを10本ほど俺の屋台まで持ってきてくれ」
「それは構いませんが……」
「できるだけ赤いやつを頼む」
俺は屋台に戻った。
「バカ賢者様、何があったです?」
2階の窓からトンが覗いている。
「見られたらヤバイんだから、顔を出すな!」
「つまんないです……することがないです……」
「あとで美味いもん持って行ってやるから」
「わかったです……」
トンが顔を引っ込めた直後にモヘイ達が帰ってきた。
あぶない、あぶない。
「賢者様、こんなんで良いでしょうか?」
モヘイは俺が直した荷車にトウモロコシを載せていた。
「うん、十分だ。ここに座って見てろ」
俺は屋台のカウンターを出して、モヘイと女将を座らせた。
赤いトウモロコシを持って厨房に入る。
「まず、実を全部落とす」
俺はナイフでトウモロコシの実を芯からそぎ落とした。
「赤穂病の実は熟れ過ぎてドロドロだし、味も濃過ぎる」
「そうです。腐ってるみてえだ」
「だから、これだけでは食えない。だが、スープにすると芳醇になる」
「スープ?」
俺はトウモロコシの実10本分をすり潰した。
「これをバルゼリア鳥の骨でとったダシ汁に入れる」
赤穂病の実のスープだ。
「……ええ! これが死血病のトウモロコシ?」
「こんな、いい匂いがするなんて!」
「病気と言っても、それは人間の都合で見た現象だからな」
「それは……そうですねえ……」
「植物からしたら別にたいしたことじゃない。むしろ栄養が増えるんだ」
「栄養が?」
「味見してみるか?」
俺は皿に赤穂病のスープを少し入れ、モヘイと女将に出した。
二人そろって一口飲む。
「……! おいしい!」
「信じらんねえ!」
「これだけじゃない。主役はこっちだ」
俺は実をそいだ芯を摘まみ上げる。
「え? 芯も食うんですかい?」
「赤穂病は実だけでなく、芯まで熟れさせる」
赤穂病のトウモロコシは芯も柔らかい。
「これを一口大に切って、スープで煮込む」
「たまげたなあ……」
出来上がった赤穂スープを二人に出した。
「うめえ! こんな、うめえもん生まれて初めてだ!」
「普通のトウモロコシでは作れない奇跡のスープだ」
「奇跡のスープ?」
「そうだ。赤穂病が出たときだけ食える貴重な逸品だ」
「呪いだと思ってたもんが、まさか……」
「栄養価も高いから薬代わりにもなる」
「あんた、これ売れるんじゃないかい?」
女将の顔が明るくなった。
「そ、そうだな……これだけ美味けりゃ」
「売れるさ。しかも滅多に食えるもんじゃない。高く売れ」
「……ああ、賢者様、ありがとうごぜえます」
「作り方は分かったな。死血病はこの町の財産だ」
「そうだったのか……」
それから女将が赤穂スープを自ら作り、町の人々にふるまった。
赤いトウモロコシはまだまだある。
さっそく、明日、近くの大きな街に売りに行くそうだ。
「そこで賢者様、もう一つお願いが……」
女将が揉み手でやってきた。
嫌な予感がする……。