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11、死血病の正体

 俺はモヘイに連れられ、畑に向かった。

 隣を歩くモヘイは横顔からも絶望が伝わってくる。


 もう一人絶望の淵にいる人間がいた。

 畑の前でへたりこんでいる女将だ。

 

「ああ……賢者様……もうおしまいです‥‥…」


 気の強い女将でも死血病の恐怖は耐えられないらしい。


 仕方ないだろう。

 畑一面が真っ赤に染まった光景は俺が見ても不気味だった。


「これが死血病か……」


 死血病はモヘイの畑を全て赤く染め、周辺の畑にもわずかに達していた。

 まるで巨大な赤い水滴が空から落ちたかのように。


 俺は畑に入り、トウモロコシを一本もいだ

 トウモロコシの実のあちこちに大きな赤い斑点ができている。

 農夫たちの言ったように、血のような赤だ。


「昨日のうちに収穫しておけば良かった……昨日はなんともなかったのに!」


 モヘイが震えながら拳を握る。


「私ら死ぬんかね……」

 

 放心状態の女将がうわ言のようにつぶやいた。


「昔から死血病にかかった農家はその年に死ぬと言われているんでさあ」


 モヘイも肩を落とした。


「なんで……オラんとこが呪われるんだ……何も悪いことしてねえのに」


 長年続く、正体不明の病気。

 それは地元民にとっては呪いにしか思えない。

 原因不明であることが、一層、恐怖を大きくしている。


「モヘイ、呪いの正体を知りたいか?」

「……?」

「少し畑を壊すが、構わないか?」

「……好きにしてくだせえ。どうせ、もう終わりだ」


 モヘイと女将をあぜ道に残し、俺は畑の中心に分け入った。

 地面に手をつく。

 土魔法は久しぶりだ。


「っ!」


 大地に魔力を注ぐ。

 深く、深く。

 達した。


 俺は後ろに飛び退く。

 その瞬間、畑の土が空へと吹き上がった。


「なんじゃ、ありゃ……」


 モヘイや農夫たちが口をぽかんと開けて見上げる。

 畑には荷車の車輪ほどの大きさの穴が空き、まだ土が噴き出し続けている。

 しばらくして噴き出す土が途切れた。


 ゴゴゴゴゴ。

 穴の底から音がする。


「血!」


 女将が叫んだ。


 穴から噴き出したのは、真っ赤な地下水。

 一度空に舞い上がり、その後、雨となって降り注いだ。


「これが死血病の正体だ」


 俺はあらかじめかけておいた反重力魔法で土を穴に戻す。

 穴が埋まり、地下水も止まった。


 周囲の人々は赤い水でびしょ濡れだ。

 もちろん、俺も。


「賢者様……これは……?」


 モヘイが赤くなった服を見て怪訝な顔をしている。


「死血病の原因は赤く変色した地下水だ」

「地下水?」

「雷などの影響で一時的に土の成分が変質し、地中を流れる水にも影響するんだ」

「はあ……」

「で、変質した地下水は地中を流れ続ける」

「この畑にまで流れてきているんですかい?」


 モヘイは驚いたように足元を見た。


「そして、畑の作物は根から少しずつ赤い地下水を吸収する」

「それで赤く……」

「根から吸い上げた量が一定ラインを超えると実が一気に赤くなるんだ」

「じゃあ……呪いじゃねえんですかい?」

「ああ。自然現象だ。かなり珍しいがな」

 

 呪いでないことを知り、モヘイは力が抜けたようだ。

 地面に尻をついた。


「そっかあ……自然なことなのか……」

「あんた……良かったねえ……」


 モヘイと女将が抱き合う。

 とりあえず、呪いの恐怖は解けたようだ。


「だども……どっちにしてもダメだ……呪いじゃなくても売れなきゃ終わりだ」


 そう。根本的な問題は解決していない。


「まあ、見た目はグロテスクだから買う人はいないだろうな」

「……昔から死血病のトウモロコシは捨てるしかなかったです」

「やっぱり死ぬしかねえんだよぉぉぉ!」


 女将が泣き出した。


「オヤジ、女将、少々面倒になるが良いか?」

「……なんです?」

「お前らは死血病と呼んでいるらしいが、この現象は赤穂病という」

「赤穂病……?」

「赤穂病になったトウモロコシは見た目が悪く、実の水分が多くなり柔らかくなる」

「そうです……腐ったみてえになる。こんなもん誰も食わねえ」

「だがな……」


 俺は赤くなったトウモロコシを拾い上げる。


「この病気、美味いんだよ」


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