10、畑の呪い
収穫に出かけたはずの宿のオヤジが戻ってきた。
「畑はどうしたんだ?」
「そ……それが……」
肩で息をしていたオヤジは、そのまま気絶し、倒れた。
「おい!」
オヤジを抱き起こすが、唸っているばかりで目を開かない。
ショックのあまり気を失ったようだ。
「オヤジ! どうした?」
そこに他の農夫たちが駆けつけてきた。
「あ、あなた様が賢者様ですか!?」
「大変なことが!」
「何があった?」
「こいつの畑が呪われちまった!」
畑が呪われる……?
「呪いとはなんだ?」
「死血病でさあ!」
「……死血病?」
呪いとは作物の病のことのようだ。
植物には様々な病気があるが、死血病というのは聞いたことがない。
「それは、どんな病気だ?」
「トウモロコシに真っ赤な斑点ができちまうんでさあ!」
「いつ見ても気味がわりい……」
「何年かごとに起こるんですが、一度かかると、あっという間に広がっちまう!」
「こいつの畑は全滅だ。もう売り物にならねえ!」
農夫たちの怯え具合を見ると、死血病はかなり深刻な病気らしい。
それがモヘイの畑で起こった……。
モヘイが倒れるほどショックを受けるのも理解できる。
「おい、モヘイ、大丈夫か!」
農夫の一人がオヤジを覗き込んだ。
オヤジはモヘイというのか。
「まさか、コイツも呪いに……!」
農夫が後ずさりする。
「違う。ショックで倒れただけだ」
「でも……」
「だいたい何の呪いだというんだ?」
「それは……昔からこの辺は死血病が絶たないんです」
「呪いとしか考えらんねえ!」
ここの人々はみんな呪いだと思い込んでいるようだ。
「その死血病は病気なんだろ? 呪いなんて、そうそうあるもんじゃない」
「いえ、ここは呪われてるんですよ! ただでさえ作物が育ちにくいのに恐ろしい病気まで……」
「……とにかく、落ち着け」
俺は農夫たちをなだめ、屋台の厨房に入った。
貯蔵庫から雑薬草を取り出す。
それをすりおろし、モヘイに飲ませた。
「うう……」
モヘイが目を開けた。
「おお、気が付いたか!」
農夫が安堵の声をあげる。
「賢者様……オラは……」
モヘイは状況をつかめていないようだ。
「気絶しただけだ」
「そうでしたか……ありがとうごぜえます……だが……」
モヘイは地面にへたり込んでしまった。
「もうダメだ……必死こいて育てたのに……」
「モヘイ……」
農夫たちが心配している。
「トウモロコシが売れなきゃ、飢え死にするしかねえ……」
農夫たちは同情の目でモヘイを見つめている。
が、自分のトウモロコシを分けてやるとは誰も言わない。
みんな自分の家族を養うだけで精一杯なのだろう。
「くそ……くそ……」
モヘイは今にも泣きだしそうだ。
「無限図書館」で死血病を検索してみる。
見当たらない。
しかし、なるほど、もしかすると……。
「オヤジ、畑に案内しろ」
「……え?」
「なんとかなるかもしれないぞ」