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1、魔王を瞬殺したら解雇された

連載スタートです。

はじめは少しシリアスですが、基本コメディです。

 魔王を前にしてなんだが……猛烈に小便がしたい…。


 長い旅路の果て、俺たちのパーティは、ついに魔王を追い詰めた。


 魔王城はトラップが面倒だったが、全て排除した。俺が。

 時折、立ちふさがる中ボスもウザかったが倒した。俺が。


 そして、今、目の前に最後の敵・魔王がいる。


「みんな、油断しないでね!」


 そう言ったのは、隣で剣を構えている勇者のセリア。俺の女だ。


 その横では、戦士の…だめだ、状況分析などしている場合ではない。

 小便がしたい。急がないと。


 魔王が殺戮モードに変体し、戦闘力をケタ違いに高めた。

 牙の伸びた口を開く。


「人間にしては、よくやったな。お前たちのような人間は初めてだ。しかし、お前たちは……」


 ズバンッッ!


 悪い。もう我慢できないんだ。

 俺は魔王が言い終わるのを待たず、究極魔法を多重発動させた。

 一瞬で魔王が消し飛んだ。


「え……ここも……?」


 女戦士のバレリーが呆気にとられ、呟く。

 他のパーティメンバーも同様だ。


 思えば、最近はこいつらの出番は皆無だった。敵は全部、俺が瞬殺してきたから。

 最後くらい皆にも思い出バトルをさせてやろうと思っていたが、尿意には逆らえん。


 俺は急いで物陰に行き、用を足した。


          ◆


 魔王城から最寄りの都市バルゼリアは祝賀に沸き立っていた。

 かつて強大な力を誇った、この都市も魔王の力で大地は荒廃し、モンスターに怯える日々を送っていた。


 それが解放されたのだから、喜びは言い表せないだろう。

 俺たちが魔王城から戻ると、すぐに祝賀会が開かれた。


「本当にいくら感謝しても足りん。礼は何でもするぞ」


 王がセリアに語り掛ける。やはり、勇者が魔王を倒したと思っているのだろう。

 まあ、イメージはそうだろうな。現実は全く違うが。


「我が国だけではありません。世界中の人々が皆さんに救われました! ありがとうございます!」


 宰相が頭を下げる。続けて、お偉いさんたち一人ひとりが礼を言っていく。

 

「いやあ、平和になって良かったですねえ!」

「しかし、いずれ、第二、第三の魔王が現れるかもしれん。そのときは、またお主らの力が必要になる」

「了解です。いつでも片付けますんで」


 酒が入って、俺も上機嫌だ。何しろ、こんな分かりやすく、めでたいことなんて久しくなかったんだ。今日ぐらい羽目を外しても良いだろう。


 魔王を倒すために故郷を出て2年。長かったような短かったような。

 途中で出会った仲間たちと一緒に頑張って……ん?


 セリアたちの表情が暗い。気のせいだろうか。


「どうした、セリア? 疲れているのか?」

「いいえ、何ともないわ」

「そうか……」


 宰相が手を叩くと宮廷楽団が演奏を始めた。踊り子たちも入ってきて花を添える。結構、露出が多い踊り子の一人が酒を注ぎに来た。


「賢者様、お酒をどうぞ」

「悪いな」

「お会いできて光栄です」


 踊り子は酒を注ぎ終わってもそばを離れない。じっと俺の顔を見つめている。


 そりゃあ、惚れるだろう。世界を救った賢者様だもの。


 すると、踊り子は周りに見えないように耳打ちをしてきた。


「今夜、よろしければ、お部屋に行っても構いませんか?」


 ほら、来た。だが……


「悪い。俺には恋人がいるんだ」


 踊り子は残念そうに一礼し、舞に加わった。


「ソーヤ、私、部屋に戻っている。切りの良いところで来て」

「……わかった」


 魔王を倒したことよりも王から最大級の謝意をもらったことよりも嬉しい。

 この時のために頑張ってきたんだ。


 俺は酒を飲み終わると、大広間を出て、セリアが泊っている客室に向かった。


「俺だ。入るぞ」

「うん」


 セリアの了解を取り、部屋に入る。

 俺の部屋よりも2倍以上広い豪華な部屋だった。少し腹立たしい気もするが、そんなことは、これから起こる出来事に比べれば、些細なことだ。


「セリア」


 窓から外を見ていたセリアが振り返った。

 美しいとしか言いようがない。個人的にはもう少し露出の多い服装が好みだが、勇者は気品も大事だから仕方ないだろう。


「長かったな」

「ええ……」


 俺はセリアの頬に触れた。


 俺たちはまだキスしかしていない。

 共に旅をする途中で恋仲になったが、ストイックなセリアは世界に平和が戻るまで、男女の一線を超えないと決めていた。


 俺もセリアも意志を尊重した。

 だが、長くは待てない。そのため、できるだけ早く魔王を倒せるよう敵を瞬殺し続けた。


「この日をどれだけ待ったか」


 俺は横目でベッドを見た。

 

「ソーヤ……」


 セリアの瞳が潤んでいる。俺と同じ気持ちなんだろう。

 下半身は収まりがつかなくなっているが、がっついてはいけない。

 俺はセリアの唇にゆっくり顔を近づけた。思えば、キスも長いことしてない。


「ソーヤ……」


 さあ、燃え上がるぞ。唇を重ねたら、そのままベッドに……。


「ここでお別れよ」

「……?」


 キスの直前で俺は止まった。事態が飲み込めない。

 何と別れるんだ……?


「……お別れって、どういうことだ?」

「あなたとの旅はここで終わり」

「……え? それって? つまり……その? 要するに…え?」


 我ながら情けないほど動揺を隠せない。

 旅の終わりというのは、何かの比喩か? 

 そうだ! お預け状態は今日で終わりってことだな! 今から俺たちは次の関係に……。


「賢者ソーヤ、あなたを解雇します」


 セリアの声は冷たかった。覚悟を決めた目はもう潤んでいなかった。



この後、第2話もアップします。

引き続き、よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 荒師というより、ほったらか師とナノられた方が。(• ▽ •;)(エタリ師でも可)
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