表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

甘いレモン

プライド


「もしかして水口?」


「えっ」


桜が散り始めた頃、私は彼と再会した。最後に会ったのは中学の卒業式だから約10年前か。当然だけど彼は大人になっていたが、10年前と変わらず格好良かった。


「久しぶりだね、こんな所で何してるの?」


こんな所って、地元なのにそんな言い方はないだろと思った。


「ただ散歩しているだけです」


とりあえず敬語で話してみる。多分そうさせたのは貴方の事は、全く意識してませんでしたアピールだったんだと思う。はい、こう見えて意外とプライドが高いのです。


「何で敬語なの?変なの、まぁ良いや。久しぶりだし、ちょっと話さない?」


むしろ何でそんなに軽々しく話せるんだと思った。私たち二人は些細な事で喧嘩して以降、あまり口を聞いていなかったのに。


「はい、良いですよ」


素っ気なく答える。彼と距離を取る理由はもう一つある。10年前彼には付き合ってる子がいた。私と喧嘩した後に付き合い出した子だ。同級生の彼氏、こうなってはもう近づき様がなかった。


「今、何してるの?結婚は?彼氏は?後、敬語辞めて欲しいんだけど」


距離を取る私にお構いなしにガンガン攻めてくる。昔からそうだ、おかげで自分に気があるのではないかと勘違いしちゃったじゃないか。いや、実際喧嘩するまでは気はあったと思う。私に手振ったりしてきたし。うん、絶対そうだ。てか、そういう事にさせて。


「今は保育士をやってま・・やってる。結婚はしてないし、彼氏もいない」


と言うと彼はそうなんだと言い、少し微笑んだ。その後、何か聞く事ないの?とキラキラした目で言ってきたので、私はあえて二番目に気になっていた事を彼に聞いた。


「えっと、そういえば昔付き合ってた人いたよね?もしかしてまだ付き合ってる?」


「阪下とは別れたよ。卒業するちょっと前に」


そうなんだ。よく一緒に帰ったりしていたのに、卒業前に。でも1年以上も付き合ってるなんて、恋愛ド素人の中学生にしては続いた方なのかな。


「そっか、仲良かったのにね」


「うん」


二人一緒に帰ってる姿を見るは本当に辛かったな。あんな思いはもう2度したくないから、彼とは別の高校に行く事にした。まぁ彼と私は学力が月と団子虫(こっちが私)ぐらい違ったので、行きたくても行けなかったんだけど。


「高校では何してたの?全然会わなかったけど」


それもその筈、未練を断ち切る為に避けてたし。私はなるべく彼の家の近くには行かない様にした。彼は電車通学で私はチャリ通だったのも都合が良かった。


「別に。部活もやらずプラプラしてたよ」


しかも誰とも付き合わなかった。彼への未練を断ち切った筈の私だったが、結局断ち切れなかった。高校で彼以上の人はもう一生現れないんだなって事を学習した。


「そっか。まぁでも彼氏の一人や二人はいたんだろうね」


人の気も知らないでよくそんな事を。ちょっとムッとした私はそっちこそ誰かと付き合ったりしてたんでしょと言いかけたが、辞めた。多分いたと思うから。だって中学で彼女いる奴だゼ?ロマンス盛り沢山(私にはなかったが)の高校生活でいない方がおかしいでしょうよ。


「大学は?それとも高校卒業後すぐ就職?」


大学では初めて彼氏が出来た。彼への想いはまだ残っていたが、流石に前に進まなきゃと思い、積極的に動いたら意外とあっさり出来た。その後すぐ別れたが。


「大学は近所の短大へ行ったよ。そっちは?」


「うん、K大。サークルとかやっててさ、楽しかったなぁ~ハァ大学時代に戻りたい」


楽しかった・・・か。その言葉がちょっと突き刺さった。きっと大学時代もエンジョイしまくってたんだろうな、彼女とHしまくってたんだろうな。そう思うと10ぐらいのダメージを受けたけど、私は大丈夫。何故なら中学時代に耐性は出来てたから。


「で、今は何やってるの?」


結構思い切った質問をした。もしかしたら一番聞きたくなかった答えがくるかも知れない。だが避けては通れない事は分かっていた。


「今は東京の会社で営業やってる。今日はたまたま帰って来てただけ」


「そうなんだ」


やはり東京に行ってたか。ほんと優秀な人は東京が好きだなぁ。少しは田舎に置いていかれる奴の気持ちも考えて下さい。寂しいだろうが。


「・・・」


「・・・」


ヤバイもう話す事がなくなっちゃった。ここでじゃあと去ったらカッコ良いのだけど、そんなの無理。今日だって街を歩きながら彼に会えたらなと思っていた。そもそもそんなバッサリ未練を断ち切れるなら、こんなに引きずったりしてない。


「ねぇ、昔さ。俺たち喧嘩したじゃん?覚えてる?俺が体育の時に思いっきりズッ転けてさ。で、その後水口がからかってきて、俺がそれに怒ってさ」


「うん。覚えてるよ」


私達が離れたキッカケだ。あの時の私は必死だった。彼に振り向いて欲しくて、彼をからかったり、彼が休んだ日は連絡帳を書いてあげたりもした、とにかく気に入られたかった。


「あれ悪い事しちゃったなぁと思っててさ、ずっと謝りたかったんだよね」


「いやいや、何で!?悪いのは全部私じゃん。謝る必要ないって!」


「ん~でも、水口の気持ちには気付いてたのに、あれはダメかなと今でも思うんだ」


私の気持ちに気付いてたんだ!ってそりゃそうか、あれだけアピールしてれば誰でも気付くか。でも、正直嬉しい。


「そんな、気にしないで。気があったのなら優しくするべきだった。やっぱり私の方が悪いよ」


「そう言って貰えると助かるよ。後、やっぱり気があったんだ」


「あ・・・まぁうん」


墓穴を掘ってしまった。最初に距離を取ってたのが今となって恥ずかしい。


「そっか。気があったのか、俺選択を間違えたのかも」


「何の選択?」


「坂下と付き合った事」


「それは坂下さんに失礼だよ」


坂下さん、同級生で優等生だった子。彼とは優等生同士でお似合いカップルだと私ですら思っていた。


「でも付き合わなければ、水口と・・・ずっとずっと後悔してる。なぁ今からでも遅くないと思うんだ、友達からで良いから始めてみない?」


「・・・」


言葉が出ない。ここで良いよと言えば彼と付き合える。結婚して、子供が出来て、幸せいっぱいな家庭を築く。そんな何回も思い描いた幸せな未来がくるかも知れない。でも。


「無理」


「えっ」


「無理だって言ってんの!バカにしないでよ!目の前に私が居たのに、他の女の元へ行った男と付き合える訳ないじゃん!」


自分の想いとは裏腹にプライドが邪魔をする。相手は何度も苦しい想いをさせられた奴だ。そう簡単に許せる筈もなかった。


「どうせ坂下さんとキスとかしてたんでしょ?私の事なんかどうでも良かったんでしょ?絶対に付き合ったりなんかしない。貴方をもうどう信じて良いか分からないし、どう愛して良いか分からない」


「水口・・・」


「アンタなんか大キラ・・・」


大嫌いと言いたかったが、涙が込み上げてきたせいで言えなかった。きっと10年分の想いが溢れ出たんだろう。カッコ悪い。結局彼の事は今でも大好きなのだ。


「ゴメン。俺・・・」


「いや、こっちこそゴメン。ただ悔しかったの。他の女の子に貴方を取られたという事実が」


もはやどうしようもない事なんだよ。解決するにはタイムマシンを使うしかない。


「そっか、そうだよな。他の女と付き合っといて今更付き合える筈ないよな。残念だけど諦めるしかないか」


「うん、出来ればたくさん後悔して。それが私が出来る唯一の復讐だから」


「ハハッ、キツイ復讐だな」


「それはお互い様。私もいつか今日を後悔する日が来るだろうし、中学の時の事だって永遠に後悔すると思う」


ただ守るのはプライド。こんなチンケなモノの為に私は幸せを捨てようとしている。なんて愚かなんだろう。でも、中学の時の私を報いる事は出来たとは思うんだ。良かったね、中学の時の私。


「じゃあ、もう行くね」


「うん。ねぇ最後に握手しない?」


「良いよ」


差し出される彼の手。綺麗な手をしていた。


「手冷たいね」


いつかこの手がまた誰かのモノになるのかと思うと胸が痛んだ。


「あっゴメン最後に俺からも聞いて貰って良い?」


「何?」


「好きだ」


「私も」


あの日喧嘩しなければ未来は変わってたのかな。今はちょっと恨むゼ、過去の私。


「じゃ行くね、バイバイ」


「バイバイ」


こうして私の初恋は幕を閉じた。今でもあの日の判断が間違っていたのか、私には分からない。それが分かるのはきっともうちょっと先の話になるだろう。いつか間違いじゃなかったと言えると日が来ると良いなぁ、春よ来い来い早く来い。あれ?私の場合行った方が良いのかな?まっどっちでも良いか。とりあえず頑張るぞ~!一人でオ~!


こうして私は歩き出した。いつかあの日の様にまた彼と再会する日が来るかも知れない。その時はお互いに幸せだと良いな、なんて思わない。私だけ幸せだと良いな。そんな事思う私はやはりプライドが高いバカな女なのだろう。















???佐?「はぁ振られちゃった~ショック。中学の時からずっと好きだったのに。坂下と別れたのも、あいつの為だったのに。ちくしょう!とりあえず今は気分紛らわす為に歌でも歌うか。ゲフンゲフン、ナ~ナ~ナ~♪ナナ~ナ~~~~ン♪おしまい~FU~♪」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ