2話
お久しぶりの更新ですが短いです。
申し訳ありません……
「それじゃ、行ってくるわね」
「どうか、お元気で」
一つ下の妹、リリスがドレスの裾を持ち、お辞儀をする。それに習ってその下の妹弟も礼をする。
「陛下の妻になるということは、不貞を働かぬよう、常に監視の目があります。ここに来れることも、そうそうないでしょう」
ティアリスの言葉に、ウィリアムが目を伏せる。やはり10歳とはまだまだ子供で、いつも共に過ごしていた姉が居なくなると寂しくなるものだ。
「リリィ。わたくしのかわりに、お母様を支えるのよ」
「えぇ、姉様」
リリィことリリスは肩で切りそろえたブロンズの髪を揺らし、答える。笑うと笑窪ができ、とても可愛らしいなぁ、と思ってしまう自分は妹バカなのかもしれない、とティアリスは思う。
「フレイア。エルザ先生が褒めていたわ。飲み込みの早い子だ、って」
「そんなこと……」
フレイアは頬を桃色に染め、俯く。エルザとは、長年ティアリスの家庭教師を務めていた女性だ。後宮で侍女として働いていたこともあり、博識な彼女は皇帝の妻となるティアリスに様々なことを教えてくれた。本来ならば、ティアリスが嫁ぐにあたり、お役目御免の筈なのだが、フレイアの家庭教師となることになったのだ。
「これからも頑張るのよ」
「はいっ」
「アリス。お庭の花がまた綺麗に咲いたわね。これもアリスの努力のおかげよ。アリスのおかげで皆が心癒されるわ」
アリスことアリステリアは、あまり勉強に向いていない質だ。だが、その分料理やデザインなどの女子らしい特技をもち、庭いじりを趣味とする彼女は、庭師にも一切引けを取らない才能を発揮し、邸の住民のヒーリングに助力していた。
「有り難きお言葉ですわ!」
ふわふわと緩く巻いてある金髪を手で弄びながらアリステリアははにかむ。女子らしい趣味を持つ彼女は、容姿もふわふわとしていて可愛らしい。
「ローザ」
「はっ、はい!」
緊張した面持ちでロザーナはティアリスに一礼する。
さらさらと茶色い髪がこぼれ落ちた。
「自由に、生きなさいね」
「……え?」
「さ、ティアリス。そろそろ王都からの馬車が到着するわ」
「そうね。じゃあ、最後にウィリアム」
「はい!」
父譲りの利発そうな顔立ちをしたウィリアムは、姉に向かって敬礼をしてみせる。その微笑ましい様子に口元を緩め、ティアリスは口を開く。
「次会うときには、お父様のお仕事を手伝えるくらい立派になっているのよ?」
「はいっ、ティアリス姉上!」
ウィリアムは幼いながらにも中々精悍だ。でも、今の表情のように他人に甘えるような仕草も多い。ティアリスも何かとこの末の弟には構ってやっていたし、それは他の妹たちも同じだ。人たらし、とかつて揶揄交じりに侍女の1人が呟いていたことを思い出し、ティアリスは嘆息した。
―――それはこの子の武器でもあり、弱点でもある。
「ではわたくしは参ります」
「道中、身体に気をつけるのよ」
「同じ帝都とはいえ、皇宮までは半日の時を要するからな」
しきりに心配そうな表情を浮かべる父母にティアリスは曖昧な笑みを向ける。こうも家族に心配されると、折角の決心が鈍ってしまうではないか。
……妃として、生きていく決心が。
「お父様も、お母様も、お元気で」
抱擁をかわすと、ティアリスは馬車に乗り込んだ。
御者はティアリスの乳兄弟であるアレス。
従者として幼い頃から仕えてくれているアゼラを伴い、一行は明るい道を進んで行った。