時と世界の狭間で
初投稿作品になります。
第三章から読み始めてもこの作品の雰囲気や流れは掴めると思いますので、もしよろしければそちらから目を通していただければ幸いです!
また、gap storyというタイトルの1、2を読むだけでも、それ以前の内容はざっと分かるので追いつくのが面倒だけど興味がある、と思ってくださった方はそこだけでもぜひ。
感想、評価はどんなものであれ今後に生かせるので、お気軽にお願します!
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@hitsuki_narou
カチコチ。カチコチ。
時計の針の動く音。ぼやけた視界の中に見えるのは、ひと際大きな古時計と、数え切れない時計たち。
徐々に視界は明瞭に。
カチコチ。カチコチ。
静寂の中に、ただただ響く進まない時計の音。
ふらつきつつも立ち上がり、
「一体…ここは…?」
カチコチ。カチコチ。
返ってくるのは無表情な時計の音。
「あ、あの…!ちょっと…そこの男性の方…!」
誰かの声がした、気がした。辺りは時計のカチコチ音で満ちている。…きっと気のせいだろう。
「あ、あの…!こ、こっちです…!」
また幻聴か。おかしな場所に来たせいで、五感もイカれてしまったのかもしれない。
「こ、こっちですってば〜…!」
…どうやら幻聴ではないようだ。他に人が居るのは安心すべきことだ。しかし、その安心は直ぐに打ち消された。なぜならばそのか細い声は、僕の頭上から聞こえてきたのだから。
ゆっくりと視線を上に向ける。
数多ある時計の中にある、一際大きな古時計の長針に、小柄な少女がぶら下がっている。声の主はその子に違いなかった。
…しかし少女が身につけていたのは、丈が長めとはいえスカートであった。見上げた先にぶら下がっているとなれば、それは嫌でも見えてしまった。
「あの、この角度だと…」
目を逸らしながらそう言うと、言葉の意味を悟った少女は、すーっと顔を赤らめると同時にスカートを押さえた。押さえてしまったのだ。両手で。時計は動いているのに重力の概念は存在するらしく、少女は想像通り、素直に落下してきた。
「ひ、ひゃぁぁぁぁぁああああ!?」
まさか生きているうちに、頭上から少女が降ってくる体験をするとは。
なんて考えている余裕はない。少女はすぐそこまで迫ってきているのだ。僕はかっこよく受け止めようと両手を広げ、そのまま少女をお姫様抱っこした――
妄想をしながら少女の下敷きになった。
なぜか少女だけでなく僕も無傷だったが、とにかくお互い無事でよかった。
「あ、あのあの、ありがめんなさい!」
謎の造語を告げる少女。焦っているのだろう。ほぼ衝突した形になったものの、若干痛むだけで済んだお腹をさすりつつ、僕は少女に問いかけた。
「いえ、僕は大丈夫です。ところでキミは一体、どうしてあんな所に?」
怒られたりすると思っていたのか、僕の態度に安堵の表情を浮かべた。しかしすぐに少女は真剣な眼差しで、こう切り出した…。
「改めて、感謝と謝罪を申し上げます。ずっと、ずっとお待ちしておりました。私は…
ゴーン。ゴーン。
少女が話だそうとしたその時、突如として鐘の音が、辺り一帯を飲み込んだ。
「…え?」
気づいた時には、先程まで目の前にいた少女は影も形もなく消えていた。
「なんだ…これ…?!」
僕の足は歪み始めていた。いや、視界が歪み始めていたのだろうか。
ずっと、待っていた…?
少女の言葉に戸惑う暇もなく、僕の視界はどんどんぼやけてゆき、やがて意識も朦朧としてきていた。僕が最後に見たものは、直前まで動いていなかった大きな時計の針が、進んだ瞬間だった。
ガチャン。
音が響き、僕の意識はプツリと途切れた。