洗礼
冒険者にはFからSまでのランクがあり、それぞれのランクの冒険者が達成できそうな難易度によって同様に依頼も分けられる。
冒険者たちのこなした依頼の数・ランクは冒険者カードに記録され、ギルドマスターによって現在のランクが相応しくないと判断された場合は試験を受け、その結果次第でランクが上がる。
ちなみにリーゼロッテの1周目でのランクはA、『魔導王』はS、『革新王』はB、勇者一行は邪神と戦った者たちがS、邪神の眷属と戦っていたのがA、『急造勇者』はAである。
また、依頼を受ける際は手続きはしなくてよく、依頼の紙が剥がされてから3日経っても達成の報告がない場合は新しい紙が貼られる。
そういうわけで控えめにFランクの依頼の紙を剥がして王都の近くの森に向かった、のだが……
「何でこの人付いて来てるんですか?」
「おいおい、酷い事を言うなー。一緒に冒険者登録した仲じゃないか!風の噂でボクが死んだとか聞いたらあの時一緒に行っていたらって気にしちゃうだろ?
ーーこれは配慮ってヤツだよ」
「……」
この人、皆本平四郎は出会って数十分しか経っていないが、何というか会話したくない人だと思う。
話し方は常に棒読みでふざけた感じだが突発的な言動は核心を突いていて、自分がどうなってでも相手を不快にさせて精神的優位に立とうとする狂気じみた物を持っているのだ。
なのでここで突き放したら森の中で適当な魔物に殺されに行って私が非難されるように仕向けるのだろう。
「あっ、ゴブリン結構いますよ!」
ロベルトがそう言って指差した方向にはゾロゾロと武器を持って洞窟から出てくる緑色の小鬼。
ちなみに依頼は『ゴブリン討伐※10匹以上 (一匹につき銅貨5枚)』だ。
「よし、アロー系魔法を全力で放て!」
「ちょっと待ってください、坊ちゃん。もしかしてこのパーティーのリーダーは坊ちゃんなんですか?」
「むっ、私が一番身分が高いだろう」
「いや、身分とか関係ないでしょう。頭の良さならリーゼ嬢、年齢ならへーシローさんが相応しいと思いますよ?」
「むむ、ならへーシローだな。金を貸してやったんだから私の意見を尊重しろよ」
「わかったよ、坊ちゃんくん。みんな、アロー系魔法で顔を狙うんだ!」
この男、真顔で顔を狙えとかエグいことを言うな……そもそもアロー系魔法が何なのかすら知らないだろうに。
というかリーダーってまさか居座るつもりなのだろうか?
それより困ったな。
話の流れからして全力でアロー系魔法を放たなければならないようだが本当の全力は学生にしては多すぎるだろうし、この年頃の全力は見たことがないのでどの程度で撃てばいいのかわからない。
……他2人の後に撃つか。
「坊ちゃんと呼ぶな、この貧民が!火の11矢」
「水の8矢」
「……雷の24矢」
そうして放たれた十一発の火の矢と八発の水の矢、二十四発の雷の矢は次々にゴブリンたちに襲いかかっていき、こちらに襲いかかろうとしていた彼らの出鼻をくじいた。
ちなみに律儀に顔を狙ったのは比較的素直なユーベルトだけだった。
「よし、全軍突撃だー」
「あの、私、接近戦は不得手なんですけど…」
「じゃあ、リーゼちゃんは魔法で援護でそれ以外は突撃だー」
「……」
「心得た!」
ロベルトは無表情無言、ユーベルトは元気良く返事して錯乱するゴブリンの群れに切り込む。
そして2人が切り込んですぐに平四郎も錆びた短剣を片手に突っ込んだ。
「サンダーボール」
リーゼロッテは巨大な電気の玉を密集していた数体のゴブリンにぶつけながら仲間を見る。
ロベルトとユーベルトは時折魔法を使いながら剣術をメインにゴブリンを次々に倒している。
ロベルトは公爵令息の従者に相応しい高度な剣術を使い、ユーベルトもそれには劣るものの同年代ではトップクラスの剣技である。
平四郎はゴブリンから奪ったのか当初持っていた物とは違う短剣でゴブリンを斬りながら、たまに左手に握られた万年筆?で顔を突いている。
その動きは平和な異世界の出身とは思えない滑らかさであり、いっそ異世界人の服を着ているだけの現地人と言われた方が納得できるほどだ。
「雷の10矢」
いつの間にか残り5体になっていたゴブリンたちを十発の雷の矢が無造作に射抜く。
しかし雷の矢は5体全てを絶命させるには至らず、胸に風穴の空いた一体のゴブリンが立ち上がるが、
「よし、これで最後だー」
棒読みでそう言った平四郎の無慈悲な斬撃で首を撥ねられた。
「フー、Fランクの依頼も大変だね。さっ、みんな魔石を…」
短剣を鞘に仕舞ってリーゼロッテたちに声をかけた、おそらく最も油断していたであろう瞬間、
ドスッ
「……は?」
平四郎の左胸に矢が突き刺さった。
そのまま平四郎は棒読みではなく心底苦しそうに倒れる。
(((仲間が全滅したタイミングで狙撃!?)))
そして誰もが動揺して隙をさらしたその時、
ヒュッ
二射目がリーゼロッテの眼前に迫っていた。