暗黒郷
あれから1年経った。
リーゼロッテは全盛期の半分程の魔力を取り戻し、あと一歩で大賢者というレベルまで魔法の練度を高め、また『理想郷・未完』はその力を遺憾なく発揮し、故郷は今や村でありながら町と同等の生活水準まで上り詰めていた。
しかし、裕福になるという事は人から狙われるリスクも孕んでいるのだ。
村の広場に息を切らせながら一人の男性が駆け込んでくる。
彼は今日が見張りの当番の者だった。
「大変だー!王都に買い物に行ったクルトが山賊に襲われて身ぐるみ剥がれて帰ってきた!」
「なんだって!?じゃあ、クルトに頼んでいた新しい食物の種や砂糖はどうなったんだ!」
「山賊に奪られたんじゃないか?」
「クッソー、銀貨7枚もかけたのに……」
「おいおい、オレなんて金貨1枚だぞ。もう冬はジャガイモとキノコしか食えねえよ」
突然の凶報に休憩していた彼らは次々に愚痴を言い始める。
一部の者が地面を殴りつけながら泣いているのが印象的だった。
山賊。
彼らに狙われるのは余裕のある村だけであり、現に狙われたという事は私たちもその域に至ったという事だが、やはりこれからずっと狙われ続けるのは遠慮したい。
リーゼロッテは即座に山賊と思わしき者たちの魔力を探った。
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「おいおい、昔はジャガイモしかなかったのにいつの間にかずいぶん溜め込んだなぁ!」
「見ろよ、このネックレス金貨3枚はしそうだぜ!」
「おい、それオレが見つけたヤツだぞ!返せ!」
村から3キロ程離れた山、その周辺の洞窟に彼らはいた。
人から奪った物を自分の物だと主張する姿は不快極まりなく、彼らはリーゼロッテの魔法の実験体になる事が決定した。
リーゼロッテはわざと足音を立てながら洞窟に入っていく。
小汚い洞窟に似合わない小綺麗な彼女はすぐに山賊たちの目にとまった。
「おい、誰の子供だよあの子?」
「知らねえよ。ガルドか親分じゃねえか?」
「いや、ガルドは童貞だから親分だろ」
「いや、親分に娘はいねえよ。つまりただの迷子だ」
「ヒュー、じゃあ好きにやっちゃっていいんだよな?」
山賊たちが一ヶ所に集まって何か話し合い、しばらくして下卑た表情の男がリーゼロッテに近づいてきた。
「へへ、お嬢ちゃん。こーんな所に何しに来たのかなぁ?」
その喋り方は、猫なで声にしようとする意思は感じるものの完全に変質者の物だった。
「キミたちは幸せにしなくていいよね?」
ーー暗黒郷
「ァアアァアアアアアッッッ!!?」
リーゼロッテがそう呟いた直後に黒い霧のような物が男の身体を通過し、男は糸が切れたように倒れこむ。
「何だ!?ローリィがいきなり泡吹いて倒れたぞ!」
「あのガキ、たぶん魔法使いだ!気をつけろ!」
山賊たちは次々に転がしていた武器を手にして構えるが、リーゼロッテは一瞥すらせずに次の魔法を放つ。
「星屑の48矢」
48本の白く輝く矢が光速でカッと拡散するように飛来し、三十四人の山賊たちを同時に洞窟の壁に縫い止める事に成功する。
「痛ぇえ!抜いてくれぇええ!!!」
一瞬で戦闘不能になり、泣き叫ぶ山賊たちを尻目に、リーゼロッテは最も近い足を縫い止められた山賊に近寄っていく。
「お嬢ちゃん、滅茶苦茶痛いんだ!魔法使いなら治してくれよッ!」
「情けないね。私の知ってる奴らならその足を切り落として反撃するよ」
ーー暗黒郷
「ギィイヤァアアァアアアアアッッ!!!」
黒い霧が山賊の顔を通過し、山賊は断末魔も残せずに顔を苦悶に歪めながらも床に倒れこんだ。
彼の精神がリーゼロッテに創られた空間 暗黒郷に送られたのを確認し、リーゼロッテは残りの山賊たちの方に向き直る。
「ーー次は誰にしようか?」
「ヒィイイイイッッ!!?」
「見逃してくれッ!?出来心だったんだ!」
リーゼロッテは彼らにゆっくり近づいていった。
最後の山賊が恐怖で失禁しながら暗黒郷に送られる。
それを確認したリーゼロッテは清々しい表情で額を拭う。
「ーー安心してくれ。
キミたちの精神は1年したら『夢幻郷・未完』に送ると約束しよう」
ーーまだ人では試していなかったんだ。