第1話
とある世界、とある戦場で俺はタバコに火をつけた。
ここはとある王国の首都、たった今敵対している帝国に滅ぼされようとしている。
崩れた建物を盾にするように、俺は隠れていた。
壁を何枚か挟んだ位置には兵士達がいて、一人の男の子を守るように囲っている。
そう、あの男の子こそが俺がここに、地球ではないこの世界にいる理由だ。
『今から送る世界で、王族の子を助け出して欲しい。』
それが今回の神からの依頼だった。
誠にめんどくさいことながら今回は急な依頼だったらしく、戦場に放り込まれた形だ。
なので、直接的な護衛ができず隠れているわけだ。
「いたぞ!あそこだ!」
男の子の護衛たちが話し合っている中、声が響く。
機械による動きのサポートを目的とした赤い光の漏れるアーマーを着込んだ敵が現れる。
銃声が響く。
帝国兵達は射撃による威嚇をしながら距離を詰めるつもりだろう。
まずい、ここは既に敵地と言っても過言じゃない。
このまま応戦でもすれば敵が集まり身動きができなくなる。
護衛の兵士達もそれはわかっているらしく、体内に宿したナノマシンを起動、青白い燐光を残しながら行動を開始。
銃弾をばら撒きながら後退を始める。
俺はため息をつきながら腰のホルスターから銃を抜く。
王国兵の生き残りが来て乱戦になればいいのにと思いながら動き出す。
どちらも身体能力が強化されており、あんまりのんびりしていると置いていかれる。
俺に出来るのは最初から戦うことだけだ。
そう割り切って俺は上着のフードを目深に被り走り出す。
ブルパップ式でサイレンサーを内蔵された大型ではあるがハンドガンサイズに収まっている俺の銃から大口径ゆえ銃声が抑えきれぬまま銃弾が飛び出す。
銃弾は狙い通りに集団の後ろについていた帝国兵の頭部を吹き飛ばす。
そのまま帝国兵のあとを追うように俺の予想だと王国兵達は隠された脱出艇で逃げるようだ。
ならばそこまでに集まる帝国兵を抑えつつ、数を減らせばいい。
「もうすぐ目的地だ!ふんばれ!」
そんな声が前方から聞こえる頃、最初からいた帝国兵は片手で足りるほどまで減っていた。
もちろん、集まってきた奴らは漏らさずに抑えた。
うまく隠蔽された脱出艇に全員乗り込んだのを確認して、俺は新しいタバコに火をともす。
やりずらかったけど、楽な仕事だった。
脱出艇が飛び立つと、俺の足元に魔法陣が現れて視界が光で満たされた。
光が収まると俺は白で満たされた部屋にいた。
「終わったぞ。」
部屋に似合わない木製のデスクで書類と格闘している男に声をかける。
「あぁ、助かったよ。」
男は顔を上げながら俺に声をかける。
ペンを置きながら髪をかきあげる男は神だ。
「トップが大変なのはどこも一緒だな。」
お疲れさんと声をかけながら俺は備え付けのソファーに腰を下ろす。
「君ほどじゃないよ。」
虚空からコーヒーを取り出し口をつけながら神は笑う。
そりゃ、ただの大学生が異世界で命懸けでドンパチやるのに比べればましだろう。
そう、俺こと夜神月透はただの一般人だ。
地球で生まれ命の危険なんて感じることが少ない日本で育った、ただの大学生だ。
強いていうならば身体が丈夫なだけの俺は高校の時にとある世界の魔王を通りすがりとして倒して以来、神に頼まれていくつかの世界で命を張ってきた。
「それで、今回の報酬はどうする?」
俺の考えが読めたのか、苦笑いしながら神が尋ねてくる。
どうせ、俺がただの人間なんかじゃないとか思ってるんだろう。
「そうだな、どっかの世界で冒険者としてのんびりするのも悪くないと思う。」
どうよ、と目で問いかける。
最初の異世界から帰った時は日本の安全な感じに安心を覚えていた。
でも、いくつかの世界を回るうちになんというか地球で生きるのが息苦しいと感じてきたのだ。
何がしたいでもなく、ただ就職のためと大学に通う日々。
のんびりしてるのは好きだが、地球での暮らしはつまらないと思ったんだ。
「いいと思うよ?装備はそのままで服だけそれっぽくしとくから。」
俺が思うところを理解してくれたのか、そこからは早かった。
魔法陣が足元に展開、視界が光で満たされる。
「それじゃ、頑張ってね。」
神に手を振るだけで答えて、俺は旅立った。