嘆く黄金 sideルカ
捕縛したラウードは、当然カーマインで尋問の憂き目に遭う。なので僕らは西方軍がラウードを受け取ってくれるまで、黒緋の通りでラウードを見張っていた。
『ステージはハケたわぁ、何か手伝う?』
レティからの通信が入り、僕らのいる場所を告げるとレティが副知事邸から出てきた。不可視を解除して手を振ると、真っ直ぐ走って来る。
「っは~、お疲れ様でした!カミルさんがあのテーブル倒したのお?」
「ちげーよ、こいつが関節ハズして逃げようとして暴れたんだっつの」
苦々し気に「俺は普段ここまで無様な捕縛はしねーぞ、もっとスマートにやる主義だ」とか一生懸命レティへ説明しているカミルがおかしくて、僕らは笑ってしまった。
レティはまだ朦朧として猿ぐつわを噛まされているラウードを見ながらスッと小さ目の「ジェイル」を作り、まったく継ぎ目のない柵を一面だけ残して全てを鋼鉄で囲んだ。「おー、レティの檻なら出られねーからな。早く西方軍のヤツ寄越してくんねーと俺らが戻れねーじゃんか」とブツブツ言うカミルを二人で宥めた。
でもその気の緩みが、レティにあんな顔をさせる結果になるなんて思わなかったんだよ。
*****
黒緋の通りの北側から走って来る人影を見て、僕らは当然のように「ラウードを引き取りに来た西方軍」だと思った。
でも近づいてくるのが一人だとわかった瞬間に、カミルが前へ出る。
「何者だ……って、お前」
「ギル!」
ギルの街灯に照らされた顔は、表情が抜け落ちたかのようにレティと檻の中のラウードを見ていた。
……くそ、レティを不可視にするタイミングを逃した……!
「――レティがラウード師匠の檻、出してたよな。師匠を離せよ、何しやがる」
「ギル、待って。話を聞いて?」
「――師匠が枕営業してんじゃないのかって言われて俺のことぶん殴ったじゃないか。ならわかるだろ、ラウード師匠を離せ」
「ギル!この人はあなたを洗の……」
「レティ!」
カミルに制止されて、レティは黙った。
洗脳支配されている人間へ「洗脳されている」と言ったところで、こちらへの不信感が募るばかりだ。逆にラウードへの心酔度合を高める結果になって洗脳が解けにくくなる。
「……ギルベルトとか言ったか。ラウードは副知事邸でとある事件の容疑者となった。接触は許されない、立ち去れ」
「あんたら西方軍じゃないだろ、そっちの長髪眼鏡が誰かの護衛だって言ってたじゃないか。捕縛の権利は……」
カミルはゴバッと闘気を漲らせ、ギルへ向けた。
「俺とその長髪眼鏡はクルト長官の命により派遣されたヴァイスの者だ、捕縛指令書もある。金糸雀の彼女は先ほど我々が協力要請しただけだ、この件には関わりがない」
指令書の映像記憶をギルへ向けてふっと三秒ほど示し、カミルはずいっと前へ出た。
「これ以上業務妨害を続けるならお前も捕縛対象だ」
ギルは真っ青な顔色をしながらも、レティを睨み続けた。
そして「うそつけよ、そいつらと仲良さげに笑ってたくせに…っ この裏切り者っ」と歯を食いしばりながらレティへ吐き捨てた。
僕は見ていられなくて、ニーナにもらってあった「洗脳解除の清核」を持ってカミルへ「やっていい?」と聞いた。カミルが頷くので、清核を起動してギルへ放つ。
だけど、結果は芳しくない。
僕らへの不信感など最初からマックス。蘇芳の軍隊式教育を受けた成果なのか、ラウードの洗脳は受け入れたのに僕らの洗脳解除は精神力で跳ね返された。
……こんなとこで蘇芳の凄さを見せつけられてもなー!
「ギルベルト・スクワイア・蘇芳。外患による洗脳被害者として、お前を保護する」
「――は!? 何言って……うぐぅっ」
カミルはギルの鳩尾へ一発入れ、アロイス先生へ通信をした。猫の庭からのゲートが開き、カイとウゲツが気絶したギルを受け取る。ウゲツは心配そうな顔をして、そっとレティへ話しかけた。
「レティ、どうする?ギルベルトの記憶……消す?」
「そう、ね。パパとウゲツの判断に、任せるわ……」
レティは、涙は流していなかった。
でもこんな声は聞いたことがない。
いつも余裕たっぷりに笑うレティ。
みんなの姉として、僕の妹として。
だけど今ここにいるのは、せっかく仲良くなった友達から地獄の呪詛みたいな声で罵られ、ひどく傷ついて心の中で泣き叫んでいる、ただの女の子だった。
そっとレティを抱き締めたら、「ごめんなさいルカ、ちょっと一人になりたい」と言った。でも離さずにぎゅうっと抱き締め、頭を撫でた。こういう時、一人になって誰とも会いたくないって気持ちはわかるよ。でもね、本当は一人になんてなりたくないんだ。それも、僕はよーく知ってる。
レティが一人になって泣きたい、優しく抱きしめてくる僕なんて大嫌いだって叫びたい気持ちもわかるよ。だからいくらでも僕に恨み言を言えばいい。でも僕は、大事な妹を一人になんてしない。そんな目に遭うのは、僕とウゲツだけで十分だよ。
「ルカは意地悪ね……っ」
そう言うと、レティは静かに力を抜いて、ようやく涙を流し始めた。




