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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
守るということ
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舞台裏の出来事 sideルカ






レティとセリナさんが舞い始めた頃、自動マッピング画面の端で「要注意」を示す黄色の光点が移動しはじめた。

――ギルベルトだ、副知事の家へ近づいてきてる。


「…カミル、ギルがこの家へ接近中」


『チッ!しょーがねえな…ルカ、足止めできるか』


「ヤー。穏便に、だよね?」


『どうだかな、素直に言う事聞きゃいいが』


「わかった、ちょっと話してみるよ」


『おう』


僕は移動魔法で副知事の家から外に出て、インビジブルで消えたままギルのそばへ行ってみた。フィーネ先生へ接続すると、すっごく緊張したマナの声が聞こえてくる……


『師匠……なんで副知事の家に入って行ったんだ?師匠は蘇芳の上層部から直々に密命を帯びてるから単独行動なんだって言ってたのに……密命なのにパーティーになんて出るか?』


ふーん、蘇芳上層部の密命ね。そんなのありえないんだけどなー。教えてあげたいけど、言ったところで信じないだろうしなー。


僕はとりあえず現場を引っ掻き回してほしくはないと思って、彼の背後で姿を現して声をかけた。


「ねえ、何してるの?」


「うわ!」


「あ、ごめん。驚かせちゃった?」


ギルはタンラン式の足さばきで僕から距離を取り、オバケを見たような顔をしている。


「君、こんなとこで何してるの?」


「……」


「黙秘、かな?黒緋くろあけの通りで挙動不審な者がいて、無事で済むと思ってるの?」


黒緋とは、国境側に一番近い通りのレンガ色のことだ。警戒はマックスだし、不審者が捕まったら一晩や二晩は平気で留置所へ入れられて尋問を食らう。


「ふざけろよ、お前のほうこそ不審者じゃねえか。蘇芳でもないのに、そっちこそ何してるんだ」


「僕が不審者なら、君のことなんて放って逃げるね。うーん…めんどくさいなあ。君、ギルベルト・蘇芳だろ」


「 !? 」


「あのさあ、猪突猛進もいいけど、君ごときが副知事の家へ侵入できると思ってるの?さっさと家へ帰りなよ。君がここへ近づいていた時点で素性くらいは把握していたよ?」


「お前、何なんだ!くそ、どこの国のスパイだ」


僕はふかーいため息が出た。レティの話ではなかなか侠気のあるやつで、女の子には優しいとか聞いたんだけど。洗脳の影響なのかな、今は脳筋丸出しだ。


――レティには悪いけど、正直言って僕はこいつにイラッとする。


「君、直情型の考えなしって言われない?他国のスパイが黒緋の巡回なんてする?悪いけどいま副知事邸には重要人物が複数滞在中だ。これ以上面倒をかけるなら拘束するけど」


「……西方軍の正規兵でもないくせに、お前に捕縛の権利があるのかよ」


「誰が捕縛なんて言った?拘束って言ったんだ、ギルベルト・蘇芳。君の目的が何かなんて関係ない。当方の護衛対象へ危険があると見做して拘束、監禁するだけだ」


「……わーったよ!帰ればいいんだろ」


んー、彼のマナは『いったん引いて様子見だ。どうやってこいつを出し抜こう』って言ってるけど。しょーがない、一度目は見逃してやるかな。


「はい、さよーならー」


僕はすんなりとその場を離れ、彼の視線が離れた隙に不可視を発動。『なんだ、あいつどこ行った??』ときょろきょろするギルを放置して、ゲートで邸内へ戻った。


「カミル、戻ったよ」


『お、お疲れ。通信で内容聞いてたが、頭悪いなあいつ』


「ほんとだよー、ちょっとアホな脳筋君だった。ラウードがどうして副知事の家へ来てるのか知りたがってたけど」


『ギルベルトってのは馬鹿なのか?ほんとに秘密指令受けてるやつが依頼主は蘇芳上層部だなんて正直に言うかよなぁ?』


「ほんとだよー。タンラン式の洗脳されると、認知機能が下がるんだっけ?」


『おう、媒介に使った蟲の質が悪いとそうなるって言うぜ』


「……洗脳から醒めたら、もう少しマトモであることを願うよ。レティの男を見る目がおかしいかもしれないって心配になっちゃう」


『ぶあっは!そう言ってやるなルカ。レティも言ってただろ、ラウードはもうギルへ興味を無くしかけてる。洗脳の効果が出たり消えたりしてて波があるんだ』


「ふぅん。まあどうでもいいけどさ」


まったく、レティに「友達」と言わせておいてあの体たらく。白縹なら修練が足りないよって言ってやるところだ。





*****





セリナさんとレティの舞が終盤に差し掛かった頃、ラウードは動いた。


『……チッ!ハイモ副知事のグラスへ何か入れた。――黒砂糖か、ありゃ』


「それ、レティが言ってたやつじゃないの」


『精霊で確認、タンランの洗脳準備薬だ。くそ、黒糖でコーティングして匂いを押さえる技術を開発してたか』


『――カミル、確保』


アロイス先生のゴーサインが出て、カミルは即座にラウードの関節を極めた。でもさすがタンランの器械武術使いだ、極められた腕の関節を外してラウードが逃れようともがいている。


『おー、骨のあるやつがいるもんだ』


『カミル、遊ばないの』


『うぃーっす』


不可視になっているカミルがどの方向から攻撃を仕掛けて来るかがわからず、盲滅法に暴れるラウードは様々な暗器を出してはカミルに叩き落され、最後はあっけなくカミルの手刀を受けて気絶した。僕は即座にラウードを捕縛方陣で縛り上げ、彼も不可視にした。一つがステージの方へ投げられたみたいだけど、それはライシャの盾で弾かれたらしい。


え?僕?

二階Fブロックのクローゼットへ潜んで、遠隔で全部魔法行使しましたけど、何か。


『ルカ、ナイス』


「ヤー」


この後アロイス先生からユリウスへ状況説明がされ、「ラウード捕縛について、クルト長官からヴァイスへ緊急捕縛指令が出されていた」という体裁が整った。通信でクルト長官から緊急連絡を受けたハイモ副知事は疑いもせずにそれを受け入れ、「長官ご自身からお褒めの言葉を賜った。長官が知るよりも早く外患捕縛へ着手していたとは素晴らしいとのことだ」と周囲の人へ誇らしげに語っていた。


こういう時に蘇芳のトップダウン至上主義は簡単でいいね。ちょっとだけおバカな感じも拭えないから、僕としては微妙なとこだけど。





*****





ハイモ副知事は生粋の「元・シュヴァルツ」だ。本来ならそのままシュヴァルツ隊長へでも昇格しておかしくないほどの実績の持ち主だったけど、諜報活動で得た情報を活用してのネゴシエイト力が蘇芳にはあまりいない「頭脳派」と見做されて副知事へと抜擢された。


国の裏方仕事集団であるシュヴァルツ出身者がここまで表舞台へ出て来られたというだけでも、彼の能力が突出していることが窺える。


――レティが「ラウードってタンランのスパイじゃないのかしら」とグラオへ報告してきた時、当然アロイス先生たちはすぐさま情報収集へと動き出した。蘇芳はこの情報を掴んでいるのか?何も知らずに誰かが洗脳されていないか?等々。


結果、ハイモ副知事とその直下に置かれている「カーマイン西方軍特殊部隊」はラウードだけでなく、他数人のスパイ容疑者をマークしているという情報を得た。ただしそれは蘇芳で定期的にされている「スパイのあぶり出し」に引っ掛かったという内容。ギルが洗脳されかかっているということまで掴んではいなかった。


そこで紫紺の長様(笑)から蘇芳の長様へと根回しが入り、カーマイン知事からの指示でラウード以下数人を対象に罠が張られたわけだ。ちなみにここ最近ラウードが忙しかったのは、仲間と思われる数人が既にハイモ副知事の罠へ嵌って行方知れずになっていたから。


表面上はスパイ狩りなど行われておらず、ハイモ副知事や任侠のスクワイア一家(ギルベルトの家)で友人同士の集まりやお茶会などが催される。その度に仲間が一人ずつ音信不通になっていくので、ラウードは焦っていた。





ラウードがハイモ副知事の懐に入れたと思ったのは、彼の直下組織で「格闘術師範」として雇い入れられたからだ。それまでラウードはマザーの鍵を探すべくスクワイア一家へ入り込もうとしていたようだが、その家の息子に懐かれて体術指導をする羽目になった。その息子の技術が向上していくと、スクワイア一家の「親分」が彼へ口利きをしてくれると言い出した。


「ラウードさんよ、あんたその腕もったいねえよ。俺らの小競り合いを止めたりっていう使い走りなんぞやめて、特殊部隊員相手にその技を伝授したほうが儲かるんじゃねえのか」


「いえいえ、私はいつでも上官殿の要請に応えられるようにしていなければいけませんので。そんなエリート部隊の指南役など荷が重いですよ」


「そうかあ?ハイモ副知事が『最近の部下どもは技術がなっとらん』って言ってたもんでな~…」


これが当時のやりとりだと言って、クルト長官経由で提出された映像記憶だ。ハイモ副知事の名が出たとたんにラウードは「そこまで言うのなら、基本程度はお教えできます」とかなんとか言って、臨時講師として特殊部隊へ赴いた。


その様子を偶然・・見た副知事が「すばらしい!」とラウードを絶賛、晩餐に招くのでその体術についてもっと話を聞きたい、来てくれ!――と、このような経緯。このすべてが「ダミーの鍵所有者」どうしの連携だと言うのだから、蘇芳らしくない頭脳プレーだよ。





  

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