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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
守るということ
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踊り子の矜持 sideレティシア

  






そのパーティールームは、一段高くなっている「舞台」がきちんとあった。ハイモ副知事は金糸雀の里から楽団を呼び寄せて演奏させたり、過去にも数度セリナさんたちのような旅芸人を呼んでお客様を楽しませたりしたことがある。


個人的な趣味なのかと思ったけど、西側でほぼ唯一の友好国「ゴーヴァルダナ」のお客様をもてなす役割もあるからみたいね。ゴーヴァルダナ人はお国でも舞踊が盛んで目が肥えてる。セリナさんは重要なお客様へのおもてなしの席に呼ばれたことがあるって言ってたわ。


舞台袖からそっとラウードがどこにいるのか確認しようとすると、カミルさんからの通信が入る。


『レティ、舞台から一時方向だ』


そちらを見ると、ラウードがひっそりと何かを飲みながら周囲を気に掛けているのがわかった。ヘッドセットをコンコンと叩いてお礼を言うと、あとは舞台へ集中するためにセリナさんへ向き直った。


「レティ、剣舞の二十五番が終わったら四十七番へ繋げるわ。最後の二拍でタメて、シンクロからミラーへ変わるから気を付けて」


「はい、了解です」


二十五番は同方向へ完全に同調した動きでセリナさんと動く。四十七番は背中合わせに舞うからセリナさんが見えなくなるけど、必ず動きを合わせてみせる。


……カミルさんがいるとは言え、もしラウードが暴れたらすぐさまジェイルで捕獲したくなっちゃいそうでイヤだわ。それでなくともギルを騙しているかもしれない人なんだもの、イライラする。


いけない、いけない。集中しなくっちゃね。





四人で目を合わせ、シンバさんがショールを奏で始めた。濁りのない高い音から低い音までを自在に操り、ラザーンさんのドシュプルールが加わると……勇壮な剣舞が始まる。


セリナさんが一人で舞う時はシミターを二刀流にしていたけれど、私が加わるバージョンの時はお互い一本ずつで舞うように振付を変更している。


私はセリナさんのもう一本の刀。

私はセリナさんのもう一本の腕。


視線の先は同じ敵。

視線で射抜き、刀で貫く。


二十五番が終わる二拍前で、私とセリナさんは初めて背中合わせになってぴたりと止まった。片足はつま先立ち、もう片足は腿上げ。右手で頭上から構えたシミターの切っ先を、左手のひらで支える。


このバランス状態で、二拍。

少しでも揺らいだら、未熟さを露呈させるようなものだわ。

絶対に「芯」は外さない!


彫像のように止まった次の瞬間、ラザーンさんが四十七番を奏で始めた。ホッとしているヒマなどない、末梢神経まで研ぎ澄ませ。


私はセリナさんの鏡像。

私はもう一人のセリナさん。


そうやって二人で「敵」を撫で斬りにしている時だった。




カシャーン……! パリン!




グラスの割れた音が響くけれど、私たちはまったく動きを止めなかった。酔った客が粗相をすることなどよくある。でも数人目の「敵」を袈裟斬りにし、視線を観客へ向けることが許される角度になった時だった。


『ライシャ!守れっ』


カミルさんの声が通信機から響き、ライシャの盾がギィンッ!と何かを弾く音がした。


( レティ、踊ってていいわよぉ。今のはラウードの暗器ね、大丈夫だから集中してて? )


セリナさんは音がした瞬間も集中を途切れさせずに舞っている。

あと三撃。

二撃。


――ラスト!!



ビィィィン……と最後の弦が震え、その余韻が全て空気へ溶けるまでは終わりじゃない。セリナさんのシミターと私のシミターは、切っ先を一ミリもずらさずに突きあわせた状態でその時を待った。


ふぅっとセリナさんの「気」が解除されていく。

それに同調して身を起こし、二人でゆっくりとレヴェランス(お辞儀)


ようやくラウードが何をしでかしたのか見ることが出来ると思って、私ははやる気持ちを抑えながらホールを見た。


「すばらしいな、セリナ!それにお弟子さんと言ってたか、あなたもだ。その集中力と胆力、称賛に値する」


ハイモ副知事はパン、パン、と拍手をしながら舞台の前へ進んできた。ほんとに集中していたから、ここまでだとは思わなかった。テーブルが二つほどひっくり返っていて、ラウードは見当たらない。何人もの招待客も、平然として拍手をしてくれていた。


「あら、どなたかがおイタしました?あいにく私たちは敵を斬っておりましたので、そちらの騒ぎに気づきませんでした」


「わはは!そのようだな、カーマインではよくあることだ、気にしないでくれ。さあみんな、協力してくれて助かったぞ。今からが本当の酒宴だ、さあ飲んで食べてくれ!」


私は少し呆気にとられつつ、どうも副知事はラウードをハメるためにこの場を設けたらしいと気づいた。ほんとはカミルさんとルカのところへ行きたいけど…


「さあさあ、小さなセリナ。君は未成年と言っていたか?果実水がいいかな、それとも紅茶かな?」


「まあ、ありがとうございます。ですが勇猛果敢なカーマインの皆様へ、この場へお呼びくださったお礼がまだできておりません。そうですよね、セリナさん」


「その通りですわ~。ラザーン、お願いね」


ラザーンさんがドシュプルールを陽気に奏で、それに合わせてシンバさんが酒瓶を私とセリナさんへ渡す。


「さあ皆様、お手元のグラスをどうぞ空けてお待ちください!二人の柔らかい動きは金糸雀でもトップクラスでございます、舞で深みを増した素晴らしい味をお楽しみください!」


私たちは思い思いにお酌をして回り、酒瓶が空になればシンバさんが絶妙のタイミングで手渡してくれる。お客様は「おお、こりゃいい!」と笑いながらお酌を受け、酔った男性が肩を抱きにくればくるりとターン。笑顔を残し、指先だけ触れて思わせぶりに次の観客へ。


腰へ手が伸びてくればストンと開脚して沈み込み、倒立からぐにゃりと起き上がって「いけないお手々をお持ちですね?」とオリーブの実を口へ押し込む。


そうして私とセリナさんがそれぞれ一周した頃、「舞付きのお酌」を受けたくて何杯も飲んでしまったセクハラおじさんは撃沈。お行儀よく遠目で見物していた人は拍手喝采。


ハイモ副知事はこうなるのがわかっていたようで、苦笑いしながらも「はは、君たちの食事と飲み物は部屋へ運ばせよう。ゆっくり休んで、もう下がっていいからね。助かったよ」と笑った。


――っはぁぁ、早く控室へ下がって顛末を聞かないと落ち着かないわぁ。





  

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