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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
守るということ
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旅芸人はつらいわね sideレティシア

  




その日の夜、パパへラウードというタンランのスパイらしき人物について報告をした。すぐに理解してくれたパパはグラオのみんなと相談し、カミルさんとルカを潜入させて確認すると言ってくれたの。これで一安心ねと思っていたら、ルカから個別に通信が入った。


『レティ、その蘇芳の友達はどうするの?ニーナとノーラに言って、洗脳解除の「清核」作ってもらっておこうか』


「それもそうよね…一応二人にお願いしておいてくれる?使うかわからないから、無駄になったら申し訳ないけど」


『その心配はないでしょ。ニーナもノーラも、最近は「備えあれば憂いなし」が口癖みたいになってるもん』


「あはは、そうねえ。宝珠諸島の薬剤室、毒核と清核でいっぱいだものね」


ニーナとノーラは三つの島が出来上がったあと、ガヴィの魔法がどう行使されているかを感じて一気に能力を開花させた。万が一何かの毒物に仲間が侵された時のためにと何十種類もの解毒用「清核」を一瞬で作って備蓄したり、人体に有害な「何か(毒物とは限らない。有害な侵入者も含まれる)」を感知・分析するための『解析ネット』を開発。


そして三島全域に、一瞬で解析ネットを敷き詰める方法を確立させてしまった。それはいわゆるガヴィ方式で、ノーラが緻密に組み立てた解析ネットの魔法というスイッチをオンにすると、その魔法へ姿を変えるためのマナがそこを通過して流れていくイメージだという。


まあ私も似たようなことができるようになっているから、感覚はわかるけど。


私?もちろん金属に関することよ?島ではあまり役に立っていないけどもね。






――そんなわけで洗脳解除の清核だけお願いして、私はセリナさんたちのお仕事補助という本来の目的へ戻った。ラウードはルカたちに任せれば何かしら進展があるだろうし、本人に会った私が動いたら察知されてしまうかもしれないもの。


今日はセリナさんを呼んだ蘇芳のお偉いさんの家へ行きます。カーマインの警備隊は中央の軍部と同じくらい大勢いて、階級も戒律も中央並み。正式名称である「蘇芳警備隊」と名乗りたくないようで、ここでは「カーマイン西方軍」と言っているらしいわ。唯一存在しないのがシュヴァルツのような諜報部ね。


現在の蘇芳の長は軍部のクルト長官なんだけど、当然カーマインの行政トップと言う意味で知事がいる。で、今回は副知事のハイモさんて人がね、セリナさんに夢中なんですってぇ~…


「レティ、ほんとに来ていいのか?もしレティとセリナの舞が見たいって言われたら、俺は断れないぞ」


「セリナさんがいいなら、頑張るわ。でも未熟者の舞を見たいだなんて言うかしら」


「シンバ、レティも一緒にってことになったら…レティへの公演依頼が来るわよ?私は愛弟子と踊れるなんてご褒美だけど~」


「うう、わかってるよ!レティはセリナの次に天才だと思ってる…」


「やだぁ、シンバさんたら褒め過ぎ…」


「いーや、俺もシンバの意見に賛成だぜ?これが戦闘に生かすための修行の一環だなんてなぁ…もったいねーよ」


ラザーンさんまで…ほんとにこの三人は私のこと褒めまくるんだもの、照れちゃって失敗しそうだわ、気を引き締めなくっちゃ。


「お、ここだ」とシンバさんが門扉を開けて入っていく家は…これ、ほんとに家かしら。区画はカーマインの南西、かなり国境寄りの赤黒いレンガの道にある。偉い人ほど国境寄りの場所に住んでいるらしくて、危なくないのかと思ったら「逆だ、国境寄りの方がバカみたいに警戒が厳しいから安全」なのだとギルに教えてもらった。


タンラン人は住宅街にはほぼ目もくれずにマザー分体を目指すので、過去に戦場になったことがあるのはほとんどがファイア・ブリックス周辺。だからあの市場は「店舗」ではなく「屋台」ばかりなんだとか。何かあったら彼らは屋台ごと姿を消し、あの市場全てががらんどうになる。


で、ハイモ副知事の家はね……金属製だったわ。内側はレンガだけど、外壁はモリブデンやタングステンを芯に使っているらしく、表面の鋼鉄が硫酸で溶かされてもたぶん穴は貫通しないと思う。何重にも様々な金属板を重ねているなんて、さすが重要人物の家ね。でも私の感覚からすると、副知事さんが囚人みたいよ?


「おお、ようこそセリナ!さあ入ってくれ」


恰幅のいいおじさんと言う感じのハイモ副知事は、代表として挨拶をしようと口を開いたシンバさんには目もくれずにセリナさんの手を取った。失礼な人ね。でも個人宅へ三人を呼んで舞を見るだなんて、かなりのお大尽なのかしら。


なるべく目立たないように気配を消し、セリナさんの衣装や小道具を持ってついていく。奥の部屋へ案内され、とっても広いホールみたいな場所には数人のお客様が優雅に談笑していた。


「みなさんお待たせ、セリナたちが来てくれたぞ!準備でき次第お願いしてもいいか?」


「ええ、もちろんです。では皆様、後ほど」


さっさと舞わせてハイさようならではなく、事前に「来客の一人」として紹介されたという状況に、シンバさんは苦い顔をしていた。要するに舞が終わったらお酌でもしろと言ってくるだろうという予測なのね。


セリナさんは「大丈夫よ、こんなのいくらでも切り抜けてみせるわ~。ね、ラザーン」とウィンクした。ラザーンさんも昨日の不機嫌はどこへやら、「おう、アレな。まかせろ」とドシュプルールをくいっと持ち上げて笑った。シンバさんも「レティ、セリナを見て臨機応変にな」と私を気遣ってくれた。


「ふふ、わかったぁ。アレね?もし私もやることになったらセリナさんのマネするから」


「ハッハァ、その意気だぜレティ」


ごちん!とグーにしたこぶしを突きあわせ、私たちは着替え用の控室へ入った。





*****




『レティ、いま副知事の家に入ってるよね』


ルカから通信が入り、ヘッドセットをコツンと一回弾いた。


『あー…ラウード、その家にいるっぽいよ』


「うそ!?」


「レティ?どうしたの~?」


「あ、ごめんなさいセリナさん。私用の衣装、ちょっと糸がほつれてたのぉ。すぐ直します~」


「あら~、急がなくて大丈夫だから、焦らずにね~」


「はぁい」


『――もういいかな。んでさ、この家から離れた場所の物陰に一人いるから誰かと思ったら、レティの友達だったよ』


動揺してごりごりっとヘッドセットを引っ掻いちゃった……ごめんなさい、ルカ。


『お師匠様が気になって付けてきたのかわからないけど、ギルだっけ?彼のマナを読むと「師匠ってほんとに特殊任務やってるのか?」みたいに疑ってるんだよ』


「(洗脳、解けてるのかしら…)」


『そうかもしれないね。でもまだ信じたいって感じはヒシヒシしてた。まあ現状そんな感じだね。ギルはそこへ入れやしないから、レティはとりあえずラウードに気を付けて。僕とカミルさんも邸内にはもう侵入済だから、安心して』


コンコン!と合図を送り、私はセリナさんよりかなり地味に仕立ててある衣裳をつけてスタンバイした。


「さーて、今日も最高の舞をみせてやりましょ~」


『おう!』


どんな場所でも矜持を忘れない私の師匠は、最高にきれいな笑顔を見せてくれた。


――セリナさんの舞を台無しにしようものなら、なます斬りにしちゃうわよ、ラウード?





  

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