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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
僕らの野望
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土壌改良 sideルカ

  




魔法で作った島には、問題点がけっこうあった。


まず土中に微生物やミミズ・モグラさえいない。そして落ち葉が積もっているわけもないので、雨水の浄化作用が低い。かといって先に木々をどばーんと生やしても、その木の養分が足りないだろうねってことになり、僕らはひとまずブナの森から落ち葉を失敬してくることにした。


まあこんなことをチマチマやっていても仕方がないので、広報部金糸雀支部のダンさんに聞いて「人の手が入っていない森」をいくつか教えてもらった。そこへ父ちゃんたちに連れていってもらい、レビの「落ち葉や腐葉土集まれ方陣」(ネーミングセンスについては、僕はもう諦めた)でごそーっとレティの作ったコンテナへ数トン単位で詰め込む。


レティはコンテナを軽々と操り、それを搬入する数分間だけウゲツが座標設定の心理魔法を解除した。それを数度繰り返し、島はすっかり腐葉土で覆われてしまった。


僕らはライシャの盾に乗せてもらってフワフワと浮き、ウゲツが島全体へ微生物が活発になる魔法をかけるのを見守った。ちなみにライシャはいま、ウゲツの影武者ダブルで実態化しているので直接話せるようになっている。


「ライシャ、畑にやるより数十倍の規模でかけるからね、よろしく」


『いいわよぉ。存分にやっちゃって、ウゲツ~』


レティが色っぽいお姉さんになってしまったかのような容姿のライシャは、ほわんとした口調とは裏腹にがっちりと僕らをガードする。それにしてもウゲツはダブルを出しつつ強力な心理魔法の制御も軽々とやってのけるようになってしまった。すごい弟だよ、ほんとに。


ウゲツが島の平地にある腐葉土や落ち葉へ向けてぶわっと精霊を放つと、ちょっと怖いような速度で地面が黒く染まって行く。まだ分解されきっていなかった赤や黄色の葉っぱだったものがぐずぐずと発酵していく様は、ノーラのヴェノムが浸透していく様子を彷彿とさせた。


「おわーっ!すっげ~なウゲツ!」


「よっし、こんなもんかな。ノーラ、頼むね」


「…ん。『真菌ファンガス転写コピー』…コピー完了、保持した…」


ノーラはファンガスの能力で「完全発酵した状態の腐葉土」をコピー。いつでも毒核(毒じゃないけど)として生成できるようにその構成を保持したって言ったんだ。これ、いくらユニークとは言えその辺の魔法使いができることじゃない。だって方陣を脳内に保持するのとは訳が違うんだ。


方陣の保持は、暗号化された意味不明な呪文みたいになっている文字列をまるっと暗記する必要がある。それだって膨大な文字数になればなるほど大変なんだ。意味のある言葉じゃないんだからね。


だけどノーラは「何かに侵されているがゆえにこの状態のモノがある」という『現象』を丸ごと暗記しているようなものだ。そのノーラからの情報を受けて事象を反転させることができるニーナだって大概な能力なんだけどね。




そして今回、すっかりリンクと繋がって魔法行使することに味をしめた宝珠兄妹は「畑を耕す係」だ。こんなことで極大魔法を使われたらたまったもんじゃないと、最初は全員で真っ青になった。でもヘルゲ先生に演算してもらって、安全性はお墨付きなんだそうだ。


攻撃魔法はからっきし、心理的に「嫌だ」と思ってしまっているため精霊の力が存分に出せないアオイは、それを今回逆手にとったんだよね。ニコル先生の「パンケーキ」っていう、名前は美味しそうだけどやってることは極悪な魔法をグローブで教わってきて、アオイのしょっぱい出力で行使するんだ。


でもリンクに繋がって行使するので、その拡大範囲と威力はちょうどいい加減になるって寸法らしい。しかも地面は岩盤じゃないので、ひっくり返すっていうより混ぜ返すことになる。……結果、いい感じに腐葉土が混ざるんじゃね?みたいな。


全員でドキドキしながら宝珠兄妹を見る。


今日は僕しかモノクルをつけていないので、アオイの前に展開されている虹色のレンズは他の子には見えてないと思うけどさ。相変わらず分厚いよねー、しかも虹を通ったあとの精霊が子供から急に百戦錬磨の兵士に仕上がって出てきてるような感じがひしひしとするんだよねー!


「きゃっほーう、パンケーキよろしくね~!」


アオイがご機嫌で叫んだ途端、黒い地面がずぼっと浮き上がる。

そしてドゥン!と直径数百メートルほどの円状に、マナ・ピエトラのフチをきれいに残して型抜きされたクッキーみたいに跳ねあがった。


次の瞬間だった。


ドッザァァァァァ!


ひっくり返そうとした勢いのまま、サラサラの土と発酵した腐葉土のミックスされた雨が僕らの上へ降り注いだ。


『っぎゃー!』


――ライシャのおかげで、生き埋めになることはなかったけど。飛び散った腐葉土や土を咄嗟にレティがでかい金属の板で打ち返し、七割くらいの土は島の中へ戻った。そして打ち返しきれなかった三割は、海へボトボトと、落ちて行きました……


「ごめんなさぁ~い…」


しょぼんとしたアオイは、まさかこんなことになるとは思っていなかったと言って落ち込んだ。慌てたレティは「これくらいの量なら、私も土を出せるわよ!気にしないでアオイ。ね?」と言って土砂を補充する。


クレアもアオイを慰めつつ、どれくらい制御がききそうかとアオイへ質問すると「これ以下は無理~…」という残念そうな声。するとレビが「あ!」と叫んで「アオイ、二段階で命令するんでしょ?二回目の時は『シャッフルしてそのまま落とせ』って言えばいいんじゃないかな」と言った。


結果、目からうろこが落ちたといった表情になったアオイは「パンケーキ」改め「チョコレートシェイク」と名を変えた、大規模農耕魔法を編み出してしまった。


……ネーミングセンスのおかしい子が二人に増えたと思ってしまったのは、内緒です。





*****





アオイが復活したおかげで土壌改良は着々と進み、湖になる予定の場所や三段ケーキ山も地形を変えないように慎重に進めていった。


ノーラが毒核で腐葉土モドキを作り出し、アオイがチョコレートシェイクで土を混ぜる。土砂が落ち着いたらウゲツが精霊魔法で微生物を活性化させる。


半日もすると、島の匂いがすっかり栄養のある土のものに変わったと、アオイはとても喜んだ。


それを見てスザクとライノ、レイノが至極満足そうな顔をしている。あの三人はおバカだけれど、仲間を想う気持ちが驚くほど強い。四年前の件と今回の件で、死んでしまったイルカや呪詛に利用されてしまった魚たちに一番心を痛めていたアオイを、ずっと心配してたんだ。


だからこの島を生き生きとしたものに変えていく作業は、アオイにとって喜びでしかない。そんなアオイを見て誰よりも喜んでいたのは、あの兄たち三人だった。


「なあ、これでほぼ全部に行き渡ったよな!」


「うっひょー、なんかふかふかに見えるぞ、あの土」


「ライシャ、俺らを落としてくれ!」


『……私はいいけどお……ほんとに落とすのぉ?』


「おう!」


『……はい、どうぞ?』


先見の明がないとでも言えばいいのか、おバカはおバカと言えばいいのか。耕したというか、空気をたっぷり含んで降り積もっただけの土の上へ数メートル上から落ちていった三人は、当然のようにボスッと腰まで刺さって身動きが取れなくなった。


「ぎゃー!動けねえええ!」


「……ライシャぁ、重量級の加圧ローラー作って、地盤を固める作業に入りましょ?」


『そうねぇ、あそこに植えられた三本の苗はどうするのぉ?』


「お水あげたら育つかしら…」


『…脳みそは育たないと思うけどぉ?』


美女と美少女の恐ろしい会話を聞きながら、残った僕らは「…集会所でお茶の準備しよっか」と言ってそっと目を逸らした。


数分後、外から「きゃあぁぁぁ」という乙女じみた男の悲鳴が三人分あがった。そしてドアの前でドッズーン!と地響きがしたのに、何事もなかったかのようにレティが集会所へ入ってきた。


「ふぅ、整地作業もあらかた済んだわよぉ」


「お疲れ様でしたレティ。紅茶とアロイス先生のフィナンシェがありますよ」


「きゃ~、美味しそう!」


女の子は全く外を見ようとしなかったので、僕とウゲツとレビは仕方なくドアをキィと開けてみた。


そこにはふわふわの土まみれの「三つの苗」が金属製の鉢植え状態になって着地していた。彼らは体の寸前までローラーで「整地」されて、目が虚ろだ。


「…真面目にみんなで作業してる時に、余計な遊び心を出すからだよ」


「ルカ…少年の心を忘れたら男はオシマイだぜ?」


「なんかイイ感じのこと言ってるけど、結果は鉢植えだからね?」


痛い目にあっても阿呆な言い訳を忘れない。

そんな三人の弟を、僕は少し可愛いと思っている。





  

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