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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
僕らの野望
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ガヴィの魔法 sideルカ

  






週末になり、生成した島はもうすっかり落ち着きを見せている。

あの後遠巻きに白縹の海上警備船や蘇芳の兵士を乗せた漁船が島のあたりを見に来たけれど、全員無事にウゲツの魔法で惑わされて帰って行ったからね。

なので今日は、とうとう「島の不可視を解除しよう」っていう作業の日なんだ。


普段は僕しかモノクルをかけてないけど、今日は全員が「眼鏡をかけた白縹」になっている。きっとアルマ先生がうきうきしながら各人に誂えたんだろうなーって感じで、一人一人デザインの違うフレームなんだから恐れ入るよ。


で、今日は同じようにバタフライシルエットの眼鏡をしたガヴィも一緒だ。移動魔法で直接島へ上陸したのはいいけど、眼鏡をかけた猫の庭メンバー、プラスアルファが空中に浮いてるようにしか見えない。


「わっほーう!なにこれすっごいじゃないのー!一面青紫の光だらけ!」


「ガヴィ、さっき説明した通りこれが島なんだ。直径はおよそ五キロの円柱状、周囲はほぼ垂直の断崖絶壁。これの周囲をぐるーっとマナ・ピエトラの壁で囲うって…ほんとに可能なの?」


僕がちょっとこんな大仕事を頼んで申し訳ないなって思いながら聞くと、あっさりと「ヘーキヘーキ」と返って来る。すっごいなガヴィ。


「ヘルゲ~、厚さどれくらいの壁が強度的に好ましいのか計算してよぉ~」


「ガヴィも構造計算できるだろうが」


「っか~、わかってないわね変態ハンサムさん!この島の周囲に壁を作るなら『建築物』だけどね、そんなもん何を土台に作ればいいってのよ!そーじゃなくってこの島の外側をマナ・ピエトラに変質させちまうってワケ。だから構造計算じゃないっつーのよ。まあ外周が強化されると思えばいいんじゃなーい?」


「…ガヴィのやりたいことは理解した。だが変態ハンサムはやめろ、俺の性癖が疑われる」


「変態魔法を使うハンサムだって褒めてるだけだっつの、さっさと厚さを計算してよー」


「……くそ、厚さは上部二メートルから下部五メートルへのゆるやかな台形。水面下五十メートル地点から作ってくれ」


「あいよ~っと!」


ヘルゲ先生と漫才みたいなやり取りをしたガヴィは、僕へ向き直ってニコッと笑った。


「へいへーい、そこのモノクル美少年!ちょいと光のフチのどこまで安全なのかわかんないからさ、おばちゃんをエスコートしてくんなーい?」


ブハッと吹き出し、「かしこまりました、マダム」なんてユリウスの真似をしながらガヴィの手を取った。


「……ちょっとコンラート、この子ほんとにあんたの息子?リーの次くらいに惚れそう」


「おうよ、俺の息子にしか見えねえだろが」


「遺伝子って時に残酷なことするわよね、ルカ」


「まあね、僕も常々そう思ってるよ」


後ろでギャアギャア言っている父ちゃんを放って、僕らは島の外縁までやってきた。僕には明確に盆地になっている形状がわかっているけど、みんなには青紫のギラギラした光で凹凸が見えにくくなってるはずだ。


レイノに「繋いで」もらえば子供組はよく視えるようになるけど、大人組は無理なんだよね。でもレイノはふっと思いついたようにライノと相談し始めた。


「なあルカ。すっげえ浅い、感覚だけの共有ならルカと大人組を繋げられるぜ。んで少しタイムラグはあるけど、ライノがルカの感覚を『経験会議』で子供組に流せば形状の把握はできる」


「おお、いいね。それで頼むよ」


途端に僕の感覚がガヴィへ流れ込んだみたいで、「お?おぉ~!これなら何とかいけるわ」と笑顔になった。逆になんだか僕にもうっすら…じゃないな、かなり鮮明なガヴィのマナが感じられる。

レイノの魔法に対する慣れの差なのかな??

あ、僕がガヴィと手を繋いでるからか?


「よーっし、んじゃいくわよー。ヘルゲ、生成完了した側から迷彩やってよ~?」


「おう」


ヘルゲ先生は並列コアで、すごい数の迷彩の方陣の展開準備をしてるのがうっすら感じられた。

――うん、変態ハンサムの名にふさわしい数だね。


ガヴィは僕が今まで誰からも感じたことのないマナを…練った?いや、「集めた」って感覚が強いな。すっげ、よく考えたら他部族の人が使うユニーク魔法のマナをこんな風にダイレクトに感じたこと、なかった。


とにかくすごい速さで、ガヴィは「建築ユニーク魔法」を構築していく。


まるでガヴィに太い水道管でもあるみたいだ。集められたマナは研鑽されたガヴィの感覚に従って一瞬で書き換えられ、流れ落ちていった。


あっという間に幅百メートル分、高さ百五十メートル分の外周はマナ・ピエトラになってしまった。


――何だこれ。なに、このマナの使い方。


これはガヴィの魔法発動が早いわけだよ。

ほんの数秒差かもしれないけど、白縹はマナを「練って」「凝縮させて」「座標へ撃ち込む」のが基本だ。それは言うなれば一発一発の砲弾を作成して撃つってことだけど、ガヴィのは大容量のタンクを積んだ放水車だ。


ガヴィの感覚が研ぎ澄まされているのが絶対条件としてあるけれど、それさえしっかりしていれば、彼女は「小さなスイッチを押すだけ」で魔法を発動していると言ってもいい。


すっげ…ガヴィって、すっげー!





僕は外周を歩きながらうきうきして島のフチを変質させていくガヴィの感覚を、たっぷりと味わいながら進んでいった。そして二時間もしないうちに、すっかりその作業は完了してしまった。


「ぷっは~、おーわり!ヘルゲ、迷彩はどーお?」


「完了だ」


『うおー!やったああ!』


「…あ、終わりか。じゃあインビジブルの解除するね?」


ガヴィのマナに圧倒されていた僕は少し放心気味で、でも彼女がフッと魔法行使をやめたので正気に戻ることができた。


青紫のマナへ「戻ってこい、お疲れさん」と言うと、島の全容が見えてきた。


「…うわあああ…ひっろい…」


「マジでこれ、二人で作ったのかよ。宝珠ってこえー…」


大人組が呆然としているけど、僕らは一応島の生成時に「不可視の感覚」を通して「どういう形の島なのか」は掴んでいる。それでも視覚情報として目に入ったその景色を見て、全員で大きくため息をついてしまった。


「んあ?なんだよお前ら。こんなすげえ島作っといて、どうして項垂れてんだ」


「…うん、まあ…見てればわかるよ、父ちゃん」


僕らはまっすぐに、今回の作戦の立役者である宝珠たちの方へ歩いていった。

正確には兄の方へ向かって、だけど。


「お、みんな集合か~!どうよこの島!すっごくね?」


「 … 」


「なんだあ?アオイまでどうしたよ」


「…スザクのおばかー…」


「な、なんでだ!?」


『地面が全部ガラス化してんじゃねーか!どうやって作物育てるんだよッ!!』


「えーっ だってよ、ゾンビ魚…」


『あそこまでブッパしなくたって殲滅できただろ!!』


「わーったよ、じゃあスヴァルト・アールヴヘイムで…」


スザクが言ってるのは土の大規模殲滅魔法のことで、ヘルゲ先生譲りの広大な泥沼を作る魔法だ。その使用目的は「一つの街を底なし沼へ沈めた後、固めてしまう」もの。だけどさ、少し考えようよスザク。クレアがすっごい笑顔になってるよ…?


「……スザクの出力でこの範囲へ行使されたら、この島はマナ・ピエトラのカップにたっぷりの泥を注いだカフェオレみたいなモノになるでしょうね」


「う…じゃ、じゃあ泥にした後で程よく熱して水分をトバす…?」


「それだけの質量の沸騰した泥が渇いて冷めるまで、どれほどの歳月がかかるのでしょうね」


「うがー!じゃあ水分トんだらニブルヘイムで冷ます!」


「きっと地中は熱々カフェオレ、表面はアイスカフェオレという最悪な地盤の出来上がり……」


ガクーッと膝をついたスザクは「すんませんっした…何かいい考えはないっすか」とクレアに降参した。全員でスザクの肩をぽん、ぽん、と軽く叩きながら一応労うと、大人組の方へクレアとレビのブレーンを先頭に歩いていった。


「えーっと、クレア?問題発生かな?」


「アロイス先生、取引願います」


「聞きましょう」


「ヘルゲ先生にガラス化した地面を修復してほしいんです。ですがこの面積ですので、グラオの紅玉を半日ほど拘束することになるかと。交渉材料に成り得るものの提示をしていただけませんか?」


アロイス先生はふーむとワザとらしく考え込み、フッと笑った。


「スザクはリアの特別課題一日分追加。それとこの島で最初に獲れた野菜を猫の庭の厨房へ納品していただく。これでどう?」


「了解致しました。よい取引をありがとうございます」


「なんでだああああ!」


スザクの叫びを聞きながらみんなで猫の庭へ戻り、その日のアフタヌーンティーはガリガリと課題をこなす彼を横目にして優雅な感じになった。


ちなみに今回のガヴィへの報酬なんだけどさ、「アロイス先生の焼き菓子セット」と「アオイの新鮮野菜詰め合わせ」だったらしいよ。ほんとに、なんでガヴィって食べ物だけであんな大仕事受けてくれるんだろうってずっと思ってたんだけどさ。


きっと、あの魔法を使うことはガヴィにとってほんとに「どうってことない」からなんだなというのが、今回よくわかった。


そしてこの感覚を得た僕がそれをみんなに何気なく伝えたことで、数人がまたしても「恐ろしい方向へ開花」することに、なった。でもそれは、また数年後の話だけどね…





  

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