Weiß sea region sideルカ
呆気にとられたアロイス先生は、少し厳しい声を出してスザクを諌めた。
「――スザク、これは遊びじゃないんだ。君たちが『いつか島を作って、そこで自由に活動したい』と言っていたのはもちろんわかってる。白縹の中でも驚くほど突出した才能を顕現した君たちは、正直言ってヘルゲやニコルを間近で見ていた僕らにとっても恐ろしいほどだ。だけどスザクもアオイも、リンクとは満足に意志疎通もできていないじゃないか。まだ君たちは精神的に未熟だっていう証拠だろう。そのできるかできないかもわからない『孤島生成作戦』を、統括長の僕に承認しろと?感情論で動くほど、中枢の正式オーダーも僕も甘くない」
「アロイス、宝珠の原動力は『仲間を想う心』だ。宝珠は俺とアオイしか現存しない。アオイは動植物に心を沿わせてる。俺は部族を問わずに友達をとにかく増やして、そいつら全部まとめて大切にしたいんだって気持ちが強い。要するに俺たち兄妹は、宝珠としてこの国そのものを守りたいってのが芯に刻まれてんだ。――きっとリンクは応えてくれる。しかもこの機会を逃したら、次は俺たちが極大魔法を使えるまでにモチベーションのあがる『更なる大事件』を待つことになるだろうぜ。今がチャンスなんだよ!」
スザクは揺るがない瞳で、アロイス先生へ一歩も引かない姿勢で言い放った。正直言えば、どちらにしてもこれは感情論の域を出ない話だとは思う。アロイス先生が懸念している「不確実性」を払拭するような情報もほとんどない。
「アロイス統括長」を納得させるためには、クレアやレビのように淡々と理詰めで納得させる手腕が必要だ。
だけど…それでも、なぜかスザクの言葉には妙な説得力があった。
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四年前にウゲツが打ち立てた計画は、「僕たちだけの島か台地を作ろうよ」だった。なぜそんなことが必要なのか。ウゲツはスイゲツと話しているうちに、あの霧雨台地や水晶台地の墳墓の守り人だったスイゲツの心を理解したからなんだ。
あの台地は、白縹を隔離するためのものだった。
あまりにも高潔に生きようとする白縹。
魔法能力が異様に高く、その瞳が修練で研ぎ澄まされていけばいくほど、精神面も高みへと上り詰める部族。
僕ら白縹は、フィーネ先生の言葉を借りれば「純粋培養に過ぎる」んだ。
【朱雀】は、「同じ人間同士だというのに分かり合えないはずはない」とどこかで希望を持って信じていた。だからこそ宝玉狩りに怒り狂い、同じ人間同士で何という非道なことをと憤った。
【水月】は、「僕たちは下界で暮らすには潔癖すぎる。分かり合える人を他部族で数人探している間に、僕らは百人殺されてしまうだろう」と諦めた。
――諦めた、と言うと語弊があるかもしれない。
彼は白縹の本質と、相容れない他部族との溝を冷静に「理解した」んだ。
だから、どちらも間違っていなかった。
人として共存できるはずだと希望を捨てなかった朱雀と、いらぬ波風を立てなければ余計な戦争も起こらないし死者も出ないと判断した水月。
どちらも、間違っていなかったんだよ。
だから僕らは「猫の庭」以上の「秘匿できる土地」を作ろうと決心した。
僕らの両親が、僕らのような特殊能力者を他部族から保護するために作った「猫の庭」。白縹の学舎へ全員が行って、よくわかったんだよ。この天使と猫のいるぼくらの棲家は、まさに僕らを隔離して「適度な外界との接触」をさせるにうってつけの「現代の霧雨台地」だったんだ。
だから、僕らはそれを発展させる。
僕らはもうマザーに登録されている、管理された白縹の子供だ。
でも僕らのような子供がどんどん増えたらどうなる?
いくら今は空き部屋の多い猫の庭だって、いつか定員オーバーになる未来は確定だ。
だったら…僕らの子供は、マザーに登録しなければいい。
いつかそんな孤島で暮らさなくてもいい国になるのなら、それでもいいけれど。僕らみたいに能力の隠蔽に四苦八苦するくらいなら、僕らの次の世代は孤島でのびのび育てて「本当の白縹」になればいいんだ。
最初に「島か台地」と言っていた曖昧な計画は、ユリウスや大人たちの頭脳と経験値によってどんどん「実現可能な計画」へと変貌していった。
台地にしてしまうと広い「土地」を確保しなくてはならないし、マザーへ土地売買の記録が残されるから却下。移動魔法やキャリアーがある前提ならそれほど問題もないだろうから、土地の売買などという危険を冒すよりは外洋に孤島を作ってしまった方がマザーの監視の目が届かなくなる。
それにしてもいきなり孤島が出現したら漁師に発見されるし調査の手も入る。だからそこは僕が島ごと消してカモフラージュするんだ。海流の変化に関しても、二人の宝珠が作る程度の島ならばそれほど影響はないというのがヘルゲ先生の予測だ。
そして島の生成が落ち着いたらガヴィに頼んでマナ・ピエトラで囲んでもらい、偽装。僕のインビジブルを解除という運びになる。うまくいけば、いくつも島を作ることで「白縹海域」ができることになるんだ。
つまり僕らは「海上の猫の庭」を作りたい。
すべては白縹本来の姿へ戻るため。
すべては僕らの未来のため。
この国と共存共栄していくために僕らが夢見た未来予想図は、いま二人の宝珠と二人の宝玉、そして七人の宝石がどれだけ一致団結できるかにかかっていた。




