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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
僕らの野望
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紅珠の言霊 sideルカ

  





僕らが午後の授業を終えてから、普段なら残り少ない学舎生活を惜しむように乱取り大会だの宿舎でのおしゃべりだのに興じていたはずだ。


でもさすがに今日は「ごめん、急用ができちゃって」と言って、僕ら三人はまっすぐ猫の庭へ帰った。


帰ってきた僕らへ、すぐさまライノが経験会議をして情報の共有をしてくれた。


――あまりいい状況では、ない。


軍上層部を通じて、中枢へはタンランの同時多発テロの可能性を伝えてある。これを以前のように捕獲し、テロリスト殲滅をできるのは「アルノルトの特殊方陣」と「白縹の大規模魔法」が必須(ということにして、四年前に偽装報告している)だというのは向こうも承知している。


それでもいま中枢が決めあぐねているのは、「白縹による威力顕示など大したことはない」と諸外国へ知らしめるためとしか思えない侵攻方法な上、あまりに頻繁なタンラン人の暴虐に腹を据えかねている議員がすごく多いかららしい。


つまり、かつてのハンジンのようにタンランを殲滅せよという気運が高まっているんだ。――ハンジンみたいな小国であれば、宝玉が三人で更地にできた。でもタンランは土地だけは広大にある。しかも元々が呪術主体で出来た国なだけあって、よそ者を受け入れない閉鎖的な土地柄だった。


その為いわゆる「首都」にあたる場所が厳重に秘匿されており、「首都を移動させているんじゃないか」なんて荒唐無稽な都市伝説まで出る始末だ。タンランの支配者一族は血の盟約で繋がっており、その命令は絶対らしい。いまだにタンランの勢力図というか組織図が判明しないのは、その「命をかけた秘匿」のせいなんだ。


だから現実問題としてタンランを殲滅するのは無理だとする派閥と、そんな御託はいい、やつらにアルカンシエルを狙うとこうなるのだと教えてやれという派閥が無駄に長い会議をしているというわけ。


「…ユリウスもそんな無駄会議に付き合わされてお気の毒に。タンランの秀でているところは恐怖政治だろうが何だろうが、血の盟約で縛り上げてきっちりと民を統治できている部分と繁殖力。あとは広い国土くらいではないですか。その首脳部の命令を受けて動く駒は自分で考えもしない傀儡ばかり。自らを磨き上げる精神性が根っこから腐れているから、あんなマナの使い方しかできない愚者が出来上がります。見つけ次第フルコースの拷問付きでおもてなしするか、兵を潜入させて首都を判明させるかの会議くらいできないのでしょうか。そこの決断ができない中枢に殲滅議決が下せるはずもありません」


もう大分慣れたけど、クレアのノンブレス毒舌が炸裂している。クレアは「学習しない阿呆」が大嫌いなんだ。四年前に完膚なきまでに失敗した作戦を、標的だけ変えて再利用しているという安直さに吐き気がすると言っていた。それに中枢の中でもおバカさんが声高に阿呆な主張をするのも我慢ならない。


でもアオイが手をぎゅっと握って、ソファで一人耐えているのを見つけたクレアは、そっと隣へ座った。


「…アオイ、イルカたちが心配なんですね?」


こくんと頷いたアオイは、悔しそうに引き結んだ唇のまま無言で「中枢の無駄会議」の時間を耐えていた。


アオイの世界は、僕らよりきっと広大で。人間関係に四苦八苦する悩みさえ小さなものに感じてしまうほど、純粋に生きようとする「彼ら」に心を沿わせている。その中でも仲のいい猫たちや、かなり賢い犬、そして優しいイルカやクジラといった「大好きな子たち」に危険が迫っているというのに、大人の都合で動くことができない現実。


でも動いてはいけない、その人間社会の約束事も理解できてしまう辛さ。


単純に僕は、アオイが可哀相で仕方なかった。そして全員が「アオイにそんな思いをさせているタンランのやり口」に非常な憤りを感じていた。





*****





「アテンション!中枢からのオーダーが降りたよ。各漁港へ何らかの被害が出ないよう、四年前のように派手にやれとのことだ。ま、タンランの殲滅議決まではいかなかったね。アルカンシエル南岸には蘇芳の軍が展開する。騒ぎに乗じて上陸してくるタンラン人はそちらに任せればいいよ」


アロイス先生が肩を竦めて僕らにも教えてくれる「グラオへのオーダー」。僕らは出る気満々だったんだけど、アロイス先生は「でもごめんね」とこちらを向いた。


「オーダー内容は『毒物拡散を防ぐため、敵性大型魚の殲滅』なんだ。捕獲の必要が無い以上、君たちは留守番。フィーネの開発した指向性特殊結界と、ヘルゲの火力があればいける」


アオイは「そんな!」と顔を上げた。


「アロイス先生、術者は捕縛しないの!?そしたら、またあのゾンビ魚にされるためにお魚たちが殺されちゃうよ…!イルカさんたちすごい悔しがってたんだよ。遠い海の子だけど、同じ仲間があんな姿で利用されて悲しんでる」


「……そうだね。でもここまで大規模に驚異的な同時テロをされては、中枢からのオーダーは無視できない。テロリスト捕縛に関しては…望み薄だけどこちらで極秘裏に調べるよとしか言えないな」


アオイは項垂れ、ぶるぶる震える拳を握りしめて耐えていた。

レティが見かねてアオイの肩を優しく抱こうとした時だ。


「――アオイ。いまじゃねえの?リンクが言ってたろ、『自然の体現者』という意味を理解しろってよ」


「で、でも、それは…自然と共生しろっていう意味だって思って。スザクだってそうでしょ?」


「考えろ、アオイ。俺たち白縹はどうしてこんな突出した魔法能力を供えてる?マナに愛されすぎた一族は、そうではない一族と相容れない。俺たちは『ある程度隔離されていないと共生できない一族』なんじゃねえのか。その隔離された環境下で『自然や他の一族と共生するための何か』を具現化できるのが俺たちなんじゃないのかよ」


僕らは目を瞠ってこの兄妹を見ていた。

彼らはシノノメやトクサと対話するために努力していたけど、リンクとは数度しか話せていないはずだ。それでも宝珠として、宝珠の集合体であるリンクと接触した二人には「僕らに見えていない白縹」が見えている気がした。


クレアとレビは二人の言葉を聞いて、きっと脳を高速回転させている。


「マナに愛され過ぎた一族」

「ある程度隔離されていないと他部族と共生できない一族」


……そういえば金糸雀の里でインナ先生が悲しげに言っていたことがあった。


『大昔、カナリア姫と呼ばれる方がいました。その時代は大勢のカナリアたちの合唱で敵の心を揺さぶり、攻めてきた他部族の軍を無力化さえしたそうですよ。それを統率していたのがカナリア姫なんです』


結局その恐ろしい「心を折るほどの感動をもたらす歌声」が脅威だと感じた紫紺によって、金糸雀の里は大戦乱時代の初期にカナリア狩りという凄惨な目に遭っている。


同じ、だよね。


そうして蹂躙された一族は、現在細々とその特徴を残すことだけを許されて存在している。


絶滅寸前まで追い込まれた白縹は、その歴史の大部分を失っている。


もしかしたらこの兄妹が言ったことは、白縹の本来の姿を表しているのかもしれないんだ。





僕らが呆然としているのもおかまいなしに、スザクは――「紅珠のスザク」は言い放った。


「アオイ、島を作ろうぜ。断崖絶壁の孤島を作って、あのゾンビ魚を隔離する。一石二鳥じゃねえか、『地殻変動が起こって海底火山が爆発、ゾンビ魚は消滅した』ってことにしてよ。俺たちの島、作っちまおう」


ニヤリと笑うスザクに、僕らは心をドカッと震わされた気がした。





  

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