予想外です sideルカ
みんなが留学で洗礼を受けたように、スザクも人間関係とかでかなり苦労するんじゃないかという予測はいい意味で外れていた。ライノとレイノは女の子に苦労していたけど、スザクときたらそういう女の子でさえ歯が立たないほどのド天然だったからだ。
初日に帰って来てから、心配していたライノがすぐに経験会議で情報を共有した時のみんなの顔ったらなかったね。
「スザク、すまん」
「俺もお前を見縊ってた。すまん」
「なんだよ?エゴン先生のことか?」
「「違ぇよ、お前のアホさをなめてたって話だよ」」
ライノとレイノに奇妙な謝罪を受けたスザクはムッとした。でも今日だけで一気に友達が増えたことに有頂天だった彼の怒りは持続もしない。
ちなみにスザクの「魔法ができるやつが好き」発言を真に受けた数人の女の子がライノとレイノに突撃した子たちだったわけだが、なぜかスザクという人柄を理解した途端に節度ある接し方へ変貌したようだ。
ステラという子は最初から騒いだりせずにスザクと接していたみたいで、彼女が「スザクはそんな狭いワクで女の子のタイプ分けをしないから、気にすることないわよ」ととりなしたと聞いた。
あの乱取り大会の最後の方で訓練場へ合流し、みんなへ水の入ったコップを渡していた彼女たちの顔には、もう妙な気負いはなかった。
これらのことをクレアはレビと検証し、アロイス先生へ伝えた。すると興味深そうにその話を聞いていた先生は「スザクも『愛し子』なのかもね」と不思議なことを言っていた。
「俺、愛し子ってママから聞いたことあるよ、アロイス先生」
「ああ、フィーネは知ってるね。宝玉の中には人に好かれやすい特性を持った人物が出現することがあるらしいんだ。ニコルは守護にそう言われていたから、スザクもその特性があるのかも」
レビによると「愛し子」という特徴もあるから、ニコル先生はいわゆる「人たらし」と言われるほどの人気ぶりなのだと言う。ちなみにあのバル爺とエレ婆ちゃんでさえ、初対面ですぐに陥落したと言うから驚きだ。
でもそう言われればスザクって憎めないもんな。
誰だって苦手なタイプや、どうしてもソリの合わない人はいる。
ニコル先生だってあくどい事を考えるような人だの「敵」と認識した相手に対しては驚くほど容赦ない部分を持っているし、そういう人に好かれるような行動もとらない。
それでも驚くほど多くの人に好かれるんだ。
それをフィーネ先生は「正のスパイラルに取り残された者は、そのまま地べたを這いずるのみなのさ。せっかく高みへ駆けあがれる気流があるというのに、心の闇に飲み込まれた者はそれに乗る気概もないということだね」と表現した。
すごく抽象的な言い方ではあるけれど、それでもニコル先生本人を見て育っている僕らはなんとなくわかる気がした。そしてもちろん、スザクにもそれが当てはまるということも。
たった一日学舎へいただけで、同期をほぼ全員「正のスパイラル」で巻き上げるようにしたスザクは、そんなことを何も気にせずバカ笑いしていた。
*****
翌日、イザークとルッツは「乱取り大会」がスザク中心に巻き起こっているという話を聞いて大爆笑していた。もちろんスザクを助ける意味合いでも、自分たちが「エゴン先生から一本取った相手とやりたい」という意味合いでも、その乱取り大会への参加に二つ返事でしたよ。
「やー、君がスザク?よろしくね、俺はルッツだよ」
「俺はイザークだ、なかよくやろうぜスザク」
「おー、兄貴から話はしょっちゅう聞いてるよ!よろしくなー!」
「ぷすー!ほんとにルカの兄弟は元気な子が多いね?」
「だろー?スザクは元気すぎて困ってるんだよ」
乱取りを十人くらいに手加減してもらえることになったスザクは、ヨロッとしていたけどまだ元気があるようだった。残りは…あれ?この前十七人って言ってた気がするんだけど、女の子まで混ざっててほぼ同期全員ていう人数になってないか、コレ…?
「ス、スザク?何この人数…」
「んあ?ルカたちが来るって聞いて全員やる気満々だぜ?後は頼むよ兄貴たち!」
「「「なんだとぉぉ!?」」」
僕はスザクの頭をスパーンとひっぱたいてから全力のイザークとルッツの相手をさせた。さすがにイザークの腕力にはかなり苦戦し、ルッツのトリッキーな動きには疲れすぎてて追いつけないでいた。
「いいねえスザク!たぶんこんなに疲れてなきゃ、俺らだってエゴン先生みたいに一本取られてたなコレ」
「ぷくす、ぷすす!スザク、最高!俺の動きについて来れる人、もう高等学舎に行かないといないんじゃないかと思ってた!」
「っだぁぁぁ、もう無理、もうダメ!誰かぁぁぁ、水くれよおお」
二人に全力で向かってこられたスザクを気の毒そうに見ていた数人が、スザクたちに水を渡してあげていた。そしてイザークたちの実力を目の当たりにしたみんなは、変な笑い方をしながら「よろしくお願いしまーす…」と腰の引けた感じになっている。
「イザークたちは休んでてよ、とりあえず僕が数人連続でやってみるね」
「お、ルカがんばれ~」
イザークへ向かってニッと笑い、順番が決まっていたらしい一人の男子が出てきて礼をした。きちんと僕も礼を返し、調息しながら出力加減を計算する。
いつもイザークたちとやる時には八十パーセントくらいでやっている。本当ならこの子たちの習熟度を見れば七十くらいに抑えた方がいいんだろうけど…いや、スザクを見てるんだからな、逆に最大値は八十五くらいでやった方がいいだろう。イザークたちも驚かしちゃえ。どうせスザクで驚いてるんだから、ほんのついでですよ。
僕の学舎での運動性能は「ルッツよりは鈍く、イザークよりは弱く」が基本だ。でもインビジブルがバレている二人には「不可視にした武器を駆使する戦法」を披露してある。なので週末は大抵外へ行って、そのパターンの乱取りをして「遊んで」いた。まあ、この子たちにはそんなマネできないから、相手を見て少し上くらいの強度を見極めることにしたよ。
というわけで、開始。
相手の子は基本がきちんとできているようで、まずは小手調べにと出した上段横面打ちをきれいに防御した。体捌きを少しずつ複雑にしながら誘導すると、段々余裕がなくなって来る。
カン!カン!と打ち合っていた音はカン、カカ、カカカン!と早くなっていく。僕は段々と踊っているレティを思い出しながらリズムへ乗る。小内刈をかけてみたり、フェイントをかけて相手のリズムを崩したり。段々と変拍子の乱痴気騒ぎみたいになるその曲は、相手の子も夢中になって追ってくるようになる。
気が付けば相手の子は、たぶん自分が思っていたよりも速いテンポで、余計な力が抜けたダンスを披露していた。そろそろ限界かな、と思ったところでキュッと相手の視野から消え失せるように沈み、パン!と掃腿を出してフィナーレ。
「一本、ルカの勝ち~!」
にこっと笑って立ち上がれるように手を引き、互いに礼。
うん、もう少しコツを掴めばちゃんと「自分の音楽」に乗れるようになるよ。今みたいに他人の演奏する曲に乗ってるだけじゃ一つ上へは行けないからね、がんばって。
その子は呆然として、自分の手をじっと見つめていた。
うんうん、わかる。
いま脳内がフル回転していて、さっきの乱取りで自分に何かが起こったっていう感覚が鮮烈にあるんでしょ。僕もよく猫の庭でそういう感覚もらったからね~。
「えーっと、次の子、やる?」
僕が声をかけて振り向くと、すっごく近距離にたくさんの子がいた。そ、それってがぶり寄りって言わないかな、どうしたのみんな。
「ちょ、次は俺の番だろ!なんでみんなして出てくるんだよお!」
「ルカ兄さん、今の何っ 私もやってほしいっ」
「アントンのやつ、あんなにうまかったか?なんであんなすげえのできたんだよ」
「スザクにコテンパンにされる覚悟で来たけど…あれ、楽しそう…」
なんだこれ。なんだ??
オロオロしていると、イザークは呆れたように僕へ声をかけた。
「……ルカぁ~、がんばれ?お前の面倒見の良さが滲み出る乱取りだったな」
「ぷっすすすす!ルカってばやっちゃったね~。俺たちはラクさせてもらえそ~」
「ちょっと二人とも!何言ってるんだよ、手伝ってー!」
『ルカ兄さんがいい!』
「えええええええ……」
嫌な汗がダラダラと背筋を伝うのを感じながら、休んでいるスザクの方を見た。そしたら「よっしゃ、さすがルカだぜ。囮作戦成功ッ!」とガッツポーズをしているのが見えた。
――後で漢の証、掻き消してやるからな?スザク…




