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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
僕らの野望
75/103

残念宝珠 sideスザク

  





俺はライノやレイノと一緒に、ここ数年自主的な筋肉マツリをしている。

ミッションで散々暴れた日以外は嬉々として相手をしてくれるカイとカミルを捕まえ、対多数の実戦仕様格闘術。コンラートを捕まえた日は隠密系やトリッキーな戦術と体術。オスカーを捕まえると基本を踏まえた上で正統派の乱取り(ただしスピードとパワーがおかしい)。


そしてたまに相手をしてくれるヘルゲは、反射速度があからさまに変態的な棒術と空手で俺たちを叩きのめす。ちなみに俺たちをノした後でほとんど息も上がっていないヘルゲが言うのは「今日は五十七パーセント」という一言のみ。


何のことかと言うと、ヘルゲの出せる最大スピードのうちどれだけを出して俺たちの相手をしたのかっていう話だ。俺はいまだに六十パー以上を出してもらえていない。


そんな俺だけど、やっぱり白縹の学舎では抜きんでているようだ。それで天狗になれるほどグラオの親父たちは甘くないわけだが、いくらなんでも放課後に同期三十人のうち十七人がアッツくなって俺と乱取りしようとしてきたらヘバるわけだよ。勘弁してくれ。


「むりだってぇぇぇ…」


「スザクがんばれよお!あと三人!三人だから!」


「エゴン先生入れたら十五人やったんだぞ…」


ジャンケンで負けて順番が最後になっていた三人は、俺にわけのわからないエールを送ってきた。

じゃあお前ら十五人やってからもう一度来い…


声もろくに出せないまま訓練場で大の字に寝転がって、ゼーハー言っていた時だった。


「…ええっと、スザクもみんなも一休みしようよ。お水とおしぼり持ってきたよ」


「うおー、水!冷たそう!飲みたい!くれー!」


観戦していた数人の女の子が食堂で人数分のコップや水を揃えてきてくれたみたいで、俺はがばっと起き上がって水を受け取った。ガパーッとあおって飲んだ瞬間に「おかわり!」と叫び、もう一杯を一気飲みしてようやく人心地がついた。


「ぷっはあぁ!うめえ!ありがとなー!」


女の子たちは笑いながら全員へ水を注いで回る。みんなへ行き渡った時に、ステラっていう子が呆れてマルセルへ諫言していた。


「ちょっとこれはないんじゃないのマルセル。いくらスザクが強くてもスタミナが無尽蔵なわけないでしょ」


「うー、悪いスザク」


「いや、まあ…限界に挑戦って感じである意味修行っぽかったからいいけどよ。ちょっと今日はもう勘弁してくれ…できなかった三人は明日一番にやるからさあ~」


「そ、そだよな。ごめんスザク、あんまりお前が強いからできちゃうんじゃないかって気になった」


申し訳なさそうに謝って来る三人へはニカッと笑い、「へっへー…、一晩寝ればどってことないからな、明日は俺のマックスパワーをお見舞いしてやるぜー…」とヘバったまま挑発しといた。みんなはブハッと笑い、「てンめー、明日は全員一巡させるってことだな?」とかとんでもないことを言い出す。


「ちょ…そりゃねえよ!ステラ、こいつらどうやったら止まるんだ!?」


「知らないわよう、スザクが煽ったんじゃないの」


「ンだよー、冷たいじゃんか!俺の健康がかかってんだ、誰かこいつら止めてくれよお」


俺の愚痴を聞いてゲラゲラ笑ってるやつらへ、ステラたちが「トーナメント戦にするとか?」だの「いっそのことエゴン先生連れて来ちゃうのはどう?」だのと意見してくれていた。


あの乱取りシロシロ星人どもにはあまり効果が無さそうだが、その優しさが身に沁みるぜと感謝していたら、クレアとルカが俺を迎えに来た。


やった…これで解放されるぜ…!


「クレア!ルカ!いいとこに来てくれた…!帰ろうぜっ」


「ぶっは!スザクがボロボロじゃーん。みんなやるねー、スザクがこんなになったの久しぶりに見たよ」


「…いい経験値ですね、スザク」


……クレア、地が出てるぞ、いいのか?

みんなはすっかりお馴染みのこの二人へ「ちーっす」とか「クレアちゃんこんにちは」とか声をかけ、マルセルが「お、ルカ兄」と状況説明していた。それを聞いていたクレアは猫をかぶり直してにっこり笑う。


「ルカ、みんなはスザクみたいに強い人と乱取りしたいの?イザーク兄さんたちも誘って、みんなと放課後にやってあげたらどうでしょうか」


「……! クレア、お前さすがだな!ルカ頼むよー、こいつら乱取り大好きの変態どもなんだ!」


「変態って何だよスザクてめー!つかもしかしてルカ兄、スザクくらいやれちゃったりすんの?今日の運動の時間に、エゴン先生負かしたんだよこいつ…」


うお…マルセル、バラすんじゃねえよ!


「……へぇぇ~、あのエゴン先生をね~……」


うごぁっ ルカ、こええから!その目、めっちゃこええから!


「いや、その、な?エゴン先生にオスカーとユッテがな、余計なこと言っててな?」


「…ああ、そういえばお父さんに通信来てましたね。エゴン先生、ウッキウキでした」


「だ、だろ!?猫はかぶらせないぞーなんて闘気爆裂状態で来られてみろよー!」


「あっはっは、それはビビるねー」


いやいやいや、目が笑ってないって兄貴。

俺が慄いているうちにルカはふっと俺の側で声を顰めて「ビビったふりして負ければよかっただろ!」とドスの効いた声を出した。マジでチビるからやめてよ兄貴。


「すんませんっした…」


「しょーがないなあ、もう…じゃあイザークたちにも聞いて、なるべくみんなに付き合うよ。でも僕らはスザクみたいな変態性能じゃないから期待しないでよ?」


みんなはやったー!と叫んで喜んでいた。まあルカたち三人は中等の最上級生の中でも一番運動がデキるってのが有名だからな。これで俺も乱取り地獄から逃れられるぜ。


大体俺の同期のやつらは、ライノとレイノを一部の女の子から隔離するって目的で放課後に運動を始めたんだけどさ。あいつらもうまい具合に適度なレベルで相手してたもんだから、組手や乱取りが大好きになってんだよ。


今日帰ったらライノたちにも恨み言くらい言ったると思ってぼへーっとしていたら、またしてもルカがボソリと俺の側で呟く。


「――僕らを引っ張り出したんだからね、スザクもイザークとルッツの相手は必須だよ?わかってるよね」ニコッ!


「なんでだあぁぁぁ!」


俺はどうしてこう、蟻地獄みたいな自爆連鎖を生み出しやすいんだっ!

項垂れながらみんなと別れ、村の中心部へ歩きながらクレアに「どうしてこうなるんだろうな、俺は…」と聞いてみた。


「――遺伝子のなせる業かと思いますが」


「遺伝子??ニコルの天然ボケか?」


「ニコル先生も自爆体質ですし、ヘルゲ先生もコンラートさんと張る程度にはネタ提供能力があると思います。見事な煽り属性といい、スザクはその二人の発展型ハイブリッドです」


「 ? つまり?」


「肩書きだけは立派な『宝玉サラブレッド』ですが、内実は『残念宝珠』ってことでしょうか」


「…キッツいぜクレア…」


俺は留学初日にして、心も体も疲れ果てた。






  

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